2014 Fiscal Year Research-status Report
超高精細表面性状分析による弥生・古墳時代青銅鏡の摩滅痕生成過程の解明
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26560145
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福永 伸哉 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50189958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 勝義 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (50345138)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 青銅鏡 / 摩滅 / 使用痕 / 原子間力顕微鏡 / 表面粗さ |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目である平成26年度は、考古学的な作業としては、出土青銅鏡片の集成と鏡種分布の地域的な特性を検討し、中部瀬戸内~畿内地域における内行花文鏡の卓越性を指摘すると共に、「摩滅鏡」資料の集成にも着手した。金属工学面での作業としては、後漢代の画像鏡片を対象試料として、その表面性状(幾何学的凹凸形状や表面粗さなど)をミリ・マイクロ・ナノメートルといったマルチスケールで定量的に評価可能な分析・解析手法を選定すべく、3次元光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、接触式表面粗さ計測器を用いて実験的検討を行った。試料表面の経時変化を促す際に塩化ナトリウム(NaCl)水溶液(濃度3.5wt%,溶液温度40℃)に試料を浸漬した状態で溶液を撹拌し、24時間間隔で表面性状の変化を上記の分析・計測手法を用いて調査した。なお、測定箇所を同一とするためにビッカース圧子痕を測定箇所の周辺に打刻し、腐食後においても残存するようにした。21週間の連続計測の結果、青銅の局所的な腐食現象が観察され、その領域が時間経過と共に徐々に拡大し、鏡の表面に形成されている凹凸形状の溝高さが僅かに減少することを3次元工学顕微鏡観察を通じて把握できた。他方、SEMやAFMといったマイクロ/ナノメートル単位の微小部観察では、全体の性状変化をとらえることは困難であるが、腐食生成物(緑青錆)の有無に関しては元素分析を含めてSEMの適用が有効であることを確認した。なお、試料表面に施された透明樹脂皮膜により腐食現象が緩和されたため、腐食速度の定量評価に際しては、樹脂皮膜の事前除去が不可欠であることも、次年度の出土実物資料の分析にあたって留意すべき点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代青銅鏡の表面性状について、実施計画段階で想定した各種の実験・分析法を試行し、その結果を検討を経てそれぞれの有効性を把握することができた。また、その過程で、青銅の腐食現象が摩滅様の表面性状を生じさせる一因ではないかとの着想を得たため、これにかんする実験を加えた。腐食という観点は、模糊とした表面状況が生成する要因として考古学の側では想定されたことのなかったものであり、遺跡の埋没環境と青銅器の表面性状の関連性という新たな研究アプローチを提示しえたと評価できる。出土実物資料の分析については、すでに大阪府文化財センター、茨木市教育委員会、川西市教育委員会などから資料借用の内諾を得ると共に、装置との兼ね合いで分析可能な資料サイズ・形状などの検討を進めており、平成27年度上半期から作業に入れる準備が整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の平成27年度は、出土実物資料の分析を加えながら、青銅鏡の模糊とした表面性状が生じた要因について蓋然性の高い仮説を提示する。大阪府文化財センター、茨木市教育委員会、川西市教育委員会などから資料借用の内諾を得ており、資料の絞り込みと分析装置の準備ができ次第、分析を実施していく。また、出土実物資料の現地観察も行い、考古学、金属工学双方の視点から資料表面の状況にかんして意見交換と検討を行う。考古学的な作業としては、表面の模糊とした「摩滅鏡」の資料集成と鏡種・地域分布などを整理する。以上の成果に基づいて、ヤマト政権成立過程における中国青銅鏡の使用実態とそれが果たした歴史的意味を復元すると共に、考古学の長年の論争である「伝世鏡問題」について、本研究に基づいた総括的な見解を提示する。研究成果は、平成27年度下半期の考古学関係研究集会で暫定的な発表を行い、平成28年度には研究論文として公表する予定である。
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Causes of Carryover |
おもな理由は、摩滅実験・観察に供するための銅鏡資料購入費として計上した物品費の一部について、適切な種類の銅鏡(内行花文鏡、方格規矩鏡なと漢中期鏡)が年度内に得られなかったために、執行を2年目に先送りしたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
銅鏡資料の入手については、関係業者と継続的な情報交換を行っており、平成27年度上半期には適切な資料を入手(購入)できる見込みである。この経費と当初予定の2年目の経費を合計したものが、平成27年度の経費であり、当初計画段階の予算執行に大きな変更はない。
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Research Products
(2 results)