2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26560146
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
李 素妍 鳥取大学, 地域学部, 講師 (50633260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 顔料 / パイプ状ベンガラ / 劣化 / 埋蔵文化財 / 微生物 / 鉄還元細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、土壌中の埋蔵文化財に使用されていた赤色顔料のパイプ状ベンガラの劣化に、土壌微生物が与える影響を明らかにすることである。本研究目的を達成するために、①パイプ状ベンガラの製造、②微生物培養、③ベンガラの顕微鏡観察および同定、④埋蔵文化財に使用されているベンガラ粒子の色相および形状を観察して上述の①から③までの研究成果と比較・検討、⑤結論の導出を行う。本研究はH26年度からH27年度の2年間行い、H26年度の研究計画は上述の①から③までであり、H27年度は④と⑤である。 研究項目①については、パイプベンガラの原料を取得するために調査地域として鳥取砂丘のオアシス周辺および茨城県虎塚古墳周辺を選定して赤色沈殿物を採取した。赤色沈殿物を自然乾燥、200℃、500℃、800℃、1100℃で焼成してX線分析装置(XRD)を用いて化合物の同定をおこなった。蛍光X線分析装置(XRF)を用いて各温度における元素組成を調査した。また、焼成したパイプ状ベンガラに分光測色計を用いて測定をおこない、焼成温度とベンガラ色相の関係を調査した。 研究項目②については、1100℃で焼成したパイプ状ベンガラを 鉄還元細菌が生息する培地にいれて培養を行い、培養期間は7日、14日である。比較試料として鉄還元細菌が生息しない培地にパイプ状ベンガラをいれて同じ培養期間で実験した。 研究項目③については、研究項目②の実験前後に走査型電子顕微鏡(SEM)によって形状を確認し、X線回折装置(XRD)を用いて化合物を同定した。培養14日後に新しい化合物の生成および形状の変化がみられ、エネルギ分散型X線分光法(EDX)により化合物の元素組成を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究項目①パイプ状ベンガラを製造するために、鳥取砂丘および虎塚古墳周辺で赤色沈殿物を採取して焼成を行った。虎塚古墳周辺の沈殿物のみでパイプ状粒子が実体顕微鏡により確認され、その大きさは約7.5μmから87.5 μmまでであり、各焼成温度による形状および大きさに変化は確認されなかった。焼成温度が上がるにつれてパイプ状粒子の色相が変化することがみられ、分光測色計によって色相を測定した。自然乾燥、200℃および500℃の測定結果では、測定値に大きな差が確認されなかったが、800℃から測定値に変化がみられた。800℃と1100℃の焼成温度では測定値の変化が著しく 高温になるとパイプ状粒子の赤味が増加していることがわかった。 研究項目②微生物培養と③ベンガラの顕微鏡観察および同定は、走査型電子顕微鏡の観察によってパイプ状の形状が確認されてそのパイプ状は集まって無定形の集合体をつくっていた。X線回折分析結果、自然乾燥、200℃および500℃の焼成ではQuartz( SiO2)のみ検出されたが、800℃と1100℃焼成ではHematite(Fe2O3)、Maghemite(Fe2O3)およびQuartzが確認された。焼成温度がパイプ状ベンガラの化合物生成に影響を与えることがわかった。実験結果をとおして焼成温度、色相および化合物に相関関係がみられた。 培養7日後の実験結果では、鉄還元細菌の有無および培養前後におけるパイプ状ベンガラの形状に相違はなかった。培養14日後、鉄還元細菌ありの実験ではパイプ状ベンガラの集合体の周辺に板状結晶が生成されていた。鉄還元細菌の有無による化合物の相違を調べるためにX線回折装置およびエネルギ分散型X線分光法(EDX)の分析結果を解析している。これらの実験結果をとおして鉄還元細菌の有無による化合物の形状およびその生成に関するデータ取得ができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度は、H26年度の実験内容について試行、評価および改良を行う。研究項目①については、たたら製鉄が行われた中国地方は 土中に鉄原料が豊富に含まれているので、パイプ状ベンガラが生成されやすい環境であると考えられる。たたら製鉄に関する文献調査および現地調査をとおしてパイプ状ベンガラの原料を採取や観察等を行う。 研究項目②と③については、培養14日後のXRD解析を完了させて鉄還元細菌の有無による相違点および培養7日後のデータとの比較・検討を行う。本来の分析方法には、分光測色計蛍光、蛍光X線分析装置およびエネルギ分散型X線分光法が含まれていないが、これらの分析方法によってより豊富な情報取得ができたので、引き続きH27年度の研究にも実施する。 H27年度から実施する研究項目④埋蔵文化財に使用されているパイプベンガラ粒子の色相および形状の観察を行いながら、引き続き研究項目②と③の実験を行う。また、研究項目④から取得した実験データを研究項目①から③までの研究成果と比較・検討を行い、⑤結論を導出して埋蔵文化財の赤色顔料の劣化に対する微生物作用を明らかにする。また、ベンガラの劣化過程で起こる粒子形状の変化をまとめ、識別チャートを作成する。本研究による成果をまとめて学会発表および論文作成を行う。
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Research Products
(2 results)
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[Presentation] パイプ状ベンガラの製造2014
Author(s)
李素妍、松井敏也、吉川英樹、奥山誠義、伊勢太郎
Organizer
中・四国九州保存修復研究会
Place of Presentation
長崎県松浦市
Year and Date
2014-11-01 – 2014-11-02