2015 Fiscal Year Research-status Report
聴覚障害者の読みやすさを考慮したスクロール表示文の改善指針
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26560172
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
井上 征矢 筑波技術大学, 産業技術学部, 准教授 (80389717)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 岳彦 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語資源研究系, 准教授 (90392539)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 情報保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、聴覚障害者がスクロール表示文を読解する際の困難を軽減することである。平成27年度は、鉄道駅において表示されるダイヤの乱れに関する案内文を取り上げ、聴覚障害者にとって読みやすく書き換える方法の検討とその評価を行った。 まず、実際に駅で表示されているダイヤの乱れに関する案内文を収集し、その内容や語順などから5種類に分類した。そしてそれぞれを先行研究を踏まえて聴覚障害者に分かりやすく書き換える方法を検討した。書き換え方法は、詳細または不要と考えられる情報の削除、語順の入れ換え(例: 「Aは、Bの影響で(のため)、Cです」→「Bの影響で(のため)、AはCです」のように主語と述語を近づける書き換え)、表現方法の書き換え(例:「(運転を)見合わせています」→「中止しています」、「(運転再開は~時を)見込んでいます」→「予定しています」など、より直接的な表現への書き換え)などとした。 次に、これらの書き換え方法の有効性を探るため、現状の表示文(20文:5種類×各4文)とその書き換え文(20文)をスクロール表示し、読解後に表示内容について選択式で問う実験を聴覚障害者学生21名(一部の表示文については15名)を対象に行った。その結果、書き換え文の平均正答率の向上は約6.5%であり、有意な差とはならなかった。しかし、書き換え文での正答率が現状の表示文での正答率を上回った表示が13文、現状の表示文が上回った表示が3文、同率が4文であり、また、実験後に行ったアンケートにおいて、21名中16名が、スクロール表示を想定した場合、語順を入れ換えた表示(「Bの影響で(のため)、AはCです」)の方が読みやすいと回答し、さらに21名全員が上記で例にあげたより直接的な表現(「中止しています」、「予定しています」)の方が読みやすいと回答するなど、本研究で検討した書き換え方法に一定の評価が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の主な課題は、(1) 電光文字表示器でスクロール表示される文章を、日本語の速読が苦手な聴覚障害者にも読みやすいように書き換える方法の暫定案を作成すること、(2) 実験によってその書き換え方法の有効性を探ること、という2点であった。これらのことについて、予定通りに進めることできた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成27年度に作成した書き換え方法の再考と、電光文字表示器におけるより効果的な表示方法に関する検討を行う。前者については、現状の表示文に比べて読みやすさが向上しなかった(読解後に行った質問に対する正答率が向上しなかった)書き換え文について、その理由の分析を行い、書き換え方法について再検討する。後者については、文章をスクロール表示する際の適切な表示速度や、読みやすい文字の色分け方法などについて調査や実験を通じて検討する。 最後に、研究の総括を行う。公共空間における電光文字表示器でスクロール表示される文章を、日本語の速読が苦手な聴覚障害者にとっても分かりやすく、かつ誰もが文意を速く把握できるように書き換える方法、そしてその文章を効果的に表示する方法について、指針としてまとめる。
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Causes of Carryover |
実験装置の作成、実験のオペレーション、アンケートの入力、スクロール表示を撮影した動画の文字起こし、などについて、当初は学生アルバイトを雇用する予定であったが、経費の有効利用のために研究代表者が自身で行ったため、残余が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度未使用分は、平成28年度分に合算し、今後行う実験の装置作成に関わる経費、実験協力者への謝金、研究補助者のアルバイト代、関連書籍の購入費、研究成果の発表費、研究打ち合わせや研究成果の発表に要する旅費、研究記録等の作成・保存のための消耗品の購入費等として使用する計画である。
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