2014 Fiscal Year Research-status Report
ガウジ介在岩の変形と電磁気学的応答およびユニバーサルラインを用いた自然電位観測
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26560186
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中川 康一 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 名誉教授 (80047282)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | SIP / せん断分極 / 岩盤破壊 / 破壊予知 / 地すべり / 地震予知 |
Outline of Annual Research Achievements |
粘土粒子は粒径が非常に小さく比表面積が大きいため、わずかの量でも全体としての表面積が他の地質材料に比較して大きいという特徴を示す。地下深いところには、電解質を溶存する地下水が比較的豊富に存在すると考えられていることから、深いところにある粘土はその粒子表面と界面の電解質溶液との間で、物理化学的相互作用が広く働くことになる。これまでの研究から、粒子表面付近には間隙水中の陽イオンが濃集したり、水分子の水素ボンドが配向されるらしいことが分かってきており、時間の経過によってイオンの傾動や水分子の配向状態は安定化すると考えられる。したがって、安定的な粘土が変形を強いられるとそれらの系の電荷のバランスが崩れ、電気的乱れが生じ分極すると考えられる。これをSIP (Shear-induced Polarization, or Potential)と呼んでいる。このような粘土粒子と電解質の電気化学的相互作用は、粘土以外の一般の地質体では、無視できる程度に小さいと見られるが、上述したように細粒な粘土では粒子界面の面積は膨大となる。一方、地質体が応力下に置かれると弱面に沿って応力腐食が発生し、やがて破壊に至る。破壊サイクルの繰り返しや熱水との反応によって、細粒化が進行し、いわゆるガウジ帯が形成されるだろう。このようなガウジ帯は変動帯の深部(地殻上・中層部)には普遍的に存在しており、外力はこの強度の低いガウジ帯にひずみを集中させることになる。したがって、負荷のかかっているガウジ帯をめがけて、SIPの観測をすることは非常に大きな意味がある。現在愛媛県大洲市において、進行中の地すべりに伴う自然電位の観測を始めようとしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究の課題は多岐に及んでいるが、SIPの観測が主体となる。室内・野外いずれの観測においても、精度の高い計測を必要としており、その観測システムの製作に多くの時間が割かれる。地表付近は様々なノイズ源があり、その中の微弱な信号を取り出すための技術が必要となる。そのためには電極にも工夫が要る。これまでの実験結果から、金属電極はそれ自体が電池を形成し、それによるノイズが非常に大きいため、できるだけ非金属の電極を選ぶ必要がある。また、水の流れもノイズ源となるため、できるだけ深く電極を埋設する必要がある。ノイズから逃れるために遮断率の高いローパスフィルター回路を付加すること、できるだけ電極数を増やすことなどが考えられる。またこれまでの経験から、落雷防護策が必須で、山間地は特に落雷が激しく、落雷を受けると電極ケーブルをはじめ、電子回路、コンピュータに至るシステムの各部分にダメージを受けることになるので、至る所に安全装置が必要となる。現在このような観測システムを構築している段階である。地すべり地を擁する山間地はデブリが多く混入されており、電極を埋設するのに大きな困難を伴う。ここではエンジンつきの簡易ボーリングマシンを使用して掘削を行った。自然電位観測地は自宅から遠距離にあるため、データの回収に困難を伴う。そのためインターネット経由のデータ収集が不可欠と思われ、現在そのシステムも開発中である。このような事情から、進捗は遅れ気味となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
SIPの研究の柱の1つには、室内試験によるメカニズムの解明がある。これまでの研究から定性的な解釈は一応可能と考えている。しかし、自然電位から得られる電位差からひずみの大きさを見積もることを考えると定量的な手法を導入する必要がある。地すべり地の自然電位観測と室内試験との間には定性的には整合性がある。これらを結び付けるには、定量的な要素試験と的確な数学モデルが必要である。しかし、これらはまだ手付かずである。もうひとつの手段として、中規模のスケール実験がある。これは室内試験よりも規模の大きなモデル実験を意味し、たとえば、大規模地すべり実験がこれにあたる。これは共同実験施設などと協力して行わなければならないが、機会があれば提案することも考えたい。屋外での自然電位の観測は、以上述べてきたように、かなりのコストと労力、時間を要するため、もう少し簡便な方法を模索する必要がある。その方法として注目しているのが「ユニバーサルライン」と呼ばれる信号・電力伝送方式ケーブルである。ユニバーサルラインは豊中計装株式会社の登録商標であり、電力ラインに信号伝送を可能にする方式であるが、これが全国に亘って敷設されている。このケーブルの大きな特徴はケーブルが大地に接地されていないということである。これは自然電位を観測する上で非常に有利な条件となる。ケーブルが複数場所で接地されると基準電位を定義できなくなるからである。今後これの活用を検討したい。
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Causes of Carryover |
これまで使用していた観測機器が落雷事故に遭ったと見られ、使用不能になったため、システムの更新を検討してきた。しかし修理により使用可能な部品などがいくらかあり、修理を行ってきた。したがって、ケーブル、電子部品、コンピュータなど新たな部品の一部の購入を見合わせ、修理を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
落雷対策として、現在観測システムの入力部に過電流防護策を講じており、システムはほぼ完動状態にあるが、これが不安定になったり、更なる落雷事故に遭遇した場合には新たな予算の執行が懸念される。しばらく様子を見ながら、観測が遂行できるようであれば、更なる計測実験への執行を検討したい。
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Research Products
(2 results)