2015 Fiscal Year Research-status Report
季節的な地温変動を誘因とする地すべり発生機構の解明
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26560190
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松浦 純生 京都大学, 防災研究所, 教授 (10353856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 隆 国立研究開発法人 森林総合研究所, その他部局等, 研究員 (30353626)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地すべり / 地温 / 膨潤性粘土鉱物 / 残留強度 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本有数の地すべり多発地帯新潟県では,融雪期に発生する地すべりの他,晩秋~初冬から移動を開始する地すべりや,厳冬期から移動が活発化する地すべりが報告されている。近年の研究により,これらの地すべり地に広く分布する膨潤性粘土鉱物(スメクタイト)に富む粘土の残留強度特性が,低温ほど強度低下する特性が明らかとなっている。本研究では,寒候期に地すべり発生のポテンシャルが高まる要因として,すべり面における季節的な地温変動が関与している可能性に注目し,室内実験と現地観測の両面から,その機構解明を進めている。 平成27年度の調査では、引き続き新潟県上越市伏野峠地区の伏野地すべり地で採取したすべり面の不撹乱試料を用い,温度環境を変化させながら繰り返し一面せん断試験を実施した。すべり面のせん断強度が温度低下に伴い低下し、せん断抵抗角の減少に影響を及ぼすことを明らかにした。また,温度低下によるクリープ変位の開始・進行を検証する実験を行ったところ,停止状態から変位が開始し,冷却中緩慢に変位が継続する挙動を確認した。リングせん断試験機を用いた長期の実験からも、せん断強度が温度変動に追随し緩やかに変化することを明らかにした。以上の一連の実験により,地温の季節変動が寒候期の地すべりの不安定化要因として関与している可能性について検証が進んだ。 野外観測では,地すべり地内の地温の季節変動の実態を調査するため,調査ボーリング孔に温度計を深度別に設置し,孔内水温の観測を継続している。また,1m深地温探査,調査孔内での高分解温度検層を無積雪期中心に定期的に実施し,地温および地下水温の観測を進めた。一方で,伏野地すべりの移動が2004年の中越地震以降沈静化していることもあり,地すべりの不安定化と地温の季節変動との因果関係については,まだ十分議論できるデータ取得に至っていない。最終年度も観測を継続し検証を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,例年晩秋~初冬に活発に移動する新潟県伏野地すべり地から採取したすべり面試料を用い、引き続き繰り返し一面せん断試験やリングせん断試験を実施した。せん断強度に及ぼす温度の影響を検証し,温度低下によりすべり面の強度が低下する挙動を確認・実証した。当初の研究計画に挙げた研究テーマの一つの検証が進んだことで,一定の成果を得たと判断している。また、これまで行ってきた実験データを整理すると,スメクタイトを多く含む粘土ほど、せん断強度の温度依存性が顕著なことが明らかとなってきた。低温環境で強度低下する挙動は、せん断速度が低速条件でのみ認められることも判明している。残留状態にある試料のせん断面や,実際の地すべり面の表面を観察すると、低速条件ほどせん断面が滑らかであり、粘土粒子が強く配向していることが示唆される。原子間力顕微鏡を用いた先行研究によると、スメタイト粒子の表面の摩擦は、低温ほど低下することが報告されている。粒子配向の進んだ残留状態にあるせん断面では、粒子の結晶構造のシートに沿う摩擦現象が卓越し、せん断面全体として低温環境ほど強度低下する特性が発現すると推察される。一方で、せん断速度が速まると、せん断面では粒子の配向が乱され、低温時に強度低下する特性が失われると説明できる。温度低下による強度低下メカニズムの一旦が次第に理解されつつある。 現地観測については,1m深地温探査や温度検層を2年間実施し,地温の季節変動が起きやすい場所や深度,深度別の水温の季節変動の状況が把握されてきた。通常の地盤では、10m以浅は季節的な地温変動にさらされる。特にスメクタイトに富むすべり面粘土を持つ浅い地すべりでは、地温が低下する寒候期に地すべりの発生ポテンシャルが増大する可能性が指摘される。平成28年度では、このような側面から野外観測データを注視し、試験地における観測を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、繰り返し一面せん断試験機を用いたすべり面の不撹乱試料での実験や、リングせん断試験機を用いたすべり面粘土の残留強度特性に及ぼす温度の影響に関する実験を精力的に行ってきた。これまでの実験ベースでの研究により、スメクタイトに富む粘土の残留強度が温度に依存する特性について大きく理解が進んだ。一方、詳細なせん断挙動に着目すると、スメクタイトの種類によっては、特異なせん断挙動が発現することも明らかになってきた。スメクタイトの交換性陽イオンの種類によっては、残留せん断状態においてスティック・スリップ(固着すべり)と呼ばれる小刻みなせん断応力の微変動を起こすものが確認された。特にCa、Mg型スメクタイトを主体とする粘土は、室温でスティック・スリップ現象が起きやすい傾向が認められる。温度環境にも依存し、低温ほどスティック・スリップ現象は喪失し、安定すべりを起こしやすくなる。平成28年度は、残留強度の温度依存特性にも関与しているスティック・スリップの発現機構の解明にも踏み込んで実験を行う予定である。 伏野地区での現地観測については,平成26~27年度の2年間、1m深地温探査,温度検層を定期的に継続実施し、無積雪期の地温の季節変動特性が明らかとなってきた。平成28年度も,現地に設置した地温計や水温計の観測を継続し,現地で継続的に取得されている気象データや,地すべりの動態観測のデータも含めながら,地すべりの不安定化と地温の季節変動との因果関係について検証を行っていく。また、積雪深が増大する厳冬期に伏野地すべりの移動が鎮静化する要因として、地すべり移動体を覆う積雪層の影響が指摘される。積雪荷重が地盤表層に作用すると、地盤の横断方向に作用する水平土圧が増大し、地すべりの安定化に寄与する可能性が考えられる。新たに考案したパイプ歪計を用いて、その仮説の検証も進めていく。
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Causes of Carryover |
当初の購入予定金額よりも安価に購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現地観測に必要な消耗品の一部として使用したい。
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