2016 Fiscal Year Research-status Report
ネット集合知を用いて評価できる定性的災害被害の定量化
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26560194
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
河田 恵昭 関西大学, 社会安全学部, 特別任命教授 (10027295)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ネット集合知 / 定性的被害 / 社会経済被害額 / 首都直下地震 / 南海トラフ巨大地震 / 被害想定 |
Outline of Annual Research Achievements |
南海トラフ巨大地震を対象として、最悪の被災シナリオに関するアンケート調査結果に対して、各被災シナリオのすべての名詞の上位30個で、名詞同士の関連(つながり)を表示した。これによって、名詞同士の関連や名詞の係り受けから、どういう話題が存在するかを俯瞰的にみることができる。修飾する単語(係り受けと呼ぶ)が形容詞の場合は状態を、動詞の場合は行動を探ることができる。係り受け単語は件数2件以上、上位5単語まで表示することを想定している。これを全体マッピングと呼ぶことにした。これらの作業によって、一つの最悪被災シナリオに対して一つの全体マッピングが得られるので、最終的には約20の全体マッピングが得られることになる。そこで、定量化できる被災シナリオと定性的にしか表現できない被災シナリオ同士の全体マッピングの類似性を統計的に解析し、20の全体マッピングを有意なグループに分類した。これらの作業結果は、すでにネット集合知を用いて解析した首都直下地震の結果と比較した。その結果、南海トラフ巨大地震と首都直下地震において同じ最悪の被災シナリオに対して、有意な差が発生することがわかった。これは、両震災が発生する地域が相違することによる地域特性が表れていると理解できる一方、国全体に及ぼす影響の大きさの差が顕著に表れたものと考えられた。ただし、今回の調査に用いた最悪シナリオにおいては、定量的な被害の大きさを明示しなかったので、アンケート調査に答えた回答者は、自分の想像する被害の大きさを基準にし、国の専門調査会などで定量的に推定された被害の大きさについての情報が提供されなかったので、両震災の被害内容の差が正確に反映されてないものと考えられた。このような解析精度の限界が現状ではあるものの、最終的には最悪被災シナリオがもたらす最大被害額と最小被害額を同定できる可能性があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れた最大の理由は、2016年4月14日に発生した熊本地震によって、従来の被災形態と異なる新たな被災形態が発生したことである。典型的には、東日本大震災で発生した製造業におけるサプライ・チェーンの問題は大きくならず、むしろ製造ライン上に設置してある各種センサーやロボット群が、2回の震度6弱以上の揺れによって設置位置が動いたことが原因である。もともと高精度の工業製品を製造することが目的であるから、たとえ微小であってもそれらの位置が地震の揺れで少しでも変われば、製造ラインはストップする。これが原因で6か月も製造中止に追い込まれたK工業では、被害の内容を公表しなかったために、長期にわたって稼働しないのか、その理由が明らかではなかった。したがって、最悪の被災シナリオが抽象的にならざるを得ず、およそ6か月後に製造再開され、それとともに被害の概要が紹介されたので、解析が遅れてしまった。また、住宅の耐震化も阪神・淡路大震災から20年以上を経て、ずいぶん進行したことがわかっている。そのために、阪神・淡路大震災当時の死亡率(震災による直接の死者数を全壊住宅戸数で割った値)に比べて、熊本地震では1/8に減少したことが判明した。同じ住宅の全壊でも、阪神・淡路大震災当時に比べて熊本地震では、強い揺れの直後にすぐに破壊されるのではなく、ある程度の時間が経過してから被災するということが起こったと考えられる。つまり、最終的に全壊してもすぐには大きく被災しないことが人的被害を少なくすると推察された。このことは、古い住宅の全壊・倒壊を最悪の被災シナリオの最上位において解析することに問題があることを示したものともいえる。これらの取り扱いについて、現在検討中であり、それを待って本格的な解析を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ネット集合知を用いた解析では、熊本地震が発生する前にアンケート調査を実施しており、この震災後に実施すれば、どのように変化したかを検討する必要がある。ただし、熊本地震における被害の出方が、とくに阪神・淡路大震災の被害の出方といくつかの点において変わったという事実は、専門家における知見であって、国民の多くに広く認知されているわけではない。そこで、仮に広く認知されたと仮定した場合(実際にはかなりの年月を要する)、最悪の被災シナリオの全体の被害に占める割合を死亡率の低下率に比例するとして解析する。一方、企業防災における新たな被災シナリオの発生については、たとえば、製造再開に至る日数を変数として、とくに東日本の場合とどのように変化したかを定量化して、その影響を検討できると考えている。
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Causes of Carryover |
2016年4月に熊本地震が発生し、その時に発生した住宅被害と人的被害との関係や企業活動の停止に至る理由が、従来の震災において見出されたものと相違することがわかった。つまり本解析で前提としていた被害の発生過程と明らかに異なる現象が見出された。したがって、その影響を定量化する必要があり、その方法を考究して解析し、改めて本研究の目的を遂行する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
熊本地震の被害調査を実施した研究者や関係者との意見交換のための旅費、新たに入手した資料を解析するために統計処理計算を補助する大学院生らの謝金、調査報告書の購入代およびプリンターのトナーなどの消耗品の購入に使用する。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] 国難に備える2016
Author(s)
河田惠昭
Organizer
高野山夏季大学
Place of Presentation
高野山大学松下講堂黎明館(和歌山県)
Year and Date
2016-08-06 – 2016-08-06
Invited
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