2015 Fiscal Year Research-status Report
心臓組織工学の更なる飛躍への挑戦:―テラヘルツ波と微細加工技術の融合―
Project/Area Number |
26560209
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
亀井 謙一郎 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定准教授 (00588262)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | マイクロ流体デバイス / テラヘルツ波 / ヒトES/iPS細胞 / 心筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
心疾患は日本国内では2番目に高い死因であり、重篤化すると最終的には心臓移植が必要となる。しかし現在、心臓移植は深刻なドナー不足であり、それに替わる治療法の開発が急務となっている。代替治療方法として最も期待されるのがヒトES/iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を使用する細胞移植治療であり、既に、小分子のみを用いて高効率・高純度に心筋細胞に分化誘導する方法の開発に成功している。しかし、細胞移植治療には成熟化した心筋細胞・組織が必要だが、従来法では未熟な心筋細胞しか得られないことが問題となっている。 申請者は、従来法では考慮されなかった「3次元組織構築」と「適度な物理的刺激」をこの問題を解く重要な鍵とした。この2つを自在に制御する手法として申請者はマイクロ流体デバイス(mFD)とテラヘルツ(THz)波を応用する。mFDは、①細胞を3次元空間配置、②細胞刺激因子の時・空間制御、など3次元組織構築に必要な要素を持っている。また、 THz波とは波長約300 micro-mの電磁波であり、近年、細胞刺激に応用する機運が世界的に高まりつつある。そこで本申請では、THz波を心筋細胞の物理的刺激に応用する。連携研究者である京都大学廣理助教は世界最高の強度である1 Mega V/cmの電磁波を照射できるTHz波顕微鏡の開発に成功している。この電位は細胞膜電位レベルに相当し、このTHz顕微鏡を用いて細胞に非侵襲的な物理的刺激を行い、心筋組織の成熟化を行う。この2つの技術を融合することで、従来法では辿りつけない心筋組織の「成熟化」を達成する。 本年度では、マイクロ流体デバイスを応用した3次元心筋組織構築デバイスの開発し、心筋組織の3次元培養化し、また、THz顕微鏡とマイクロ流体デバイスの実験系を開発を開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度では、mFDを用いた組織培養の3次元化を行った。本申請で提唱したmFDは、ヒトES/iPS細胞から分化誘導した細胞を用いた3次元組織構築と、より生体内に近い機能性の再現を可能とするものである。分化細胞の3次元組織化は組織工学の将来的な実用化には必要条件であり、組織工学を実用化へと加速化する。本年度では、心筋組織の3次元培養化を可能にした。 また、THz波を用いた細胞刺激法の開発も行った。THz波は現在我々が用いている光刺激と比べ長波長なので、細胞へのダメージを軽減でき、電極を用いるような他の方法と比べ非侵襲的に細胞刺激を行うことができる。しかし、従来のTHz装置では不可能であり、廣理助教が開発した装置を用いて初めて可能になる。また、THz波は水によって吸収されるので、通常の細胞培養ディッシュでは細胞刺激を十分に行えず、水の影響を軽減できるmFDとは非常に良い組み合わせとなり、今まで困難だった知見が得られるようになる。 現時点において、これらの研究は順調に進んでいるが、心筋組織の成熟化を定量化するために、in situでの心筋組織の電気生理学的な検査をする必要が出てきた。そこで、本研究ではmFDに多点マイクロ電極アレイを導入することにした。これと、mFD、THz装置を組み合わせることによって、心筋組織の成熟化とその定量的評価が可能になる。
|
Strategy for Future Research Activity |
目的A.で開発・構築した3次元心筋組織細胞にTHz波を照射することで心筋組織の更なる成熟化を行う。(Fig. 4)。その際に、THz波を細胞に照射する時間、強度、回数などを検討し、成熟化に最適な条件を見出す。 本年度では、3次元組織化した心筋組織の機能評価を行うために、まず免疫染色法による成熟心筋細胞マーカー発現の確認(beta-MHCなど)、細胞周期測定、電気生理学的評価(パッチクランプ法、Microelectrode array(MEA)法)、蛍光プローブによる細胞機能イメージング(膜電位、細胞内Ca2+など)、走査型電子顕微鏡による心筋細胞に特徴的な微細構造の確認(T-tubules)、などの方法を用いて評価する。また得られた組織に於ける全遺伝子発現パターンを、成人心筋組織のそれと比較することによって、本申請で得られた心筋組織がどれだけ成人組織に近づけたかを評価する。また、THz波が細胞に与える影響が明らかとなっていないこともあるので、予定外の影響(副作用)の有無も併せて確認・評価する。 また先述したように、心筋組織の成熟化を定量化するために、in situでの心筋組織の電気生理学的な検査をする必要が出てきた。そこで、本研究ではmFDに多点マイクロ電極アレイを導入することにした。これと、mFD、THz装置を組み合わせることによって、心筋組織の成熟化とその定量的評価が可能になる。
|
Causes of Carryover |
本研究では、テラヘルツ波を細胞刺激に使用するために、新規機器開発を行っている。本研究を再現性良く達成し、論文投稿するにあたって、更に開発している機器のアップデート、及び追試試験が必要になり、当初より想定していた期間を延長する必要が出てきた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
そこで当該年度では、新規機器開発・試験に必要な消耗品に関する経費を使用する。また理由の項でも述べたように、本研究で得られた成果を論文という形で外部に発表するにあたって必要な経費も使用する予定となっている。
|
Research Products
(5 results)