2014 Fiscal Year Research-status Report
近赤外レーザによる物理的免疫アジュバントの確立:生体の新たな光感受機構の探求
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26560221
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (00351883)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | レーザ / ワクチン / 免疫 / 活性酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はレーザ光照射の免疫活性作用に着目し,低出力近赤外レーザ光の皮膚また粘膜への短時間照射がワクチンに対する免疫アジュバントとして作用するという仮説を証明し,その作用機序を細胞ならびに分子レベルにて解明することを目的とした. まず,免疫機構を活性化するメカニズムに活性酸素種 (ROS) が関与しているという仮説を立て,レーザ照射強度に依存したROSおよび関連するサイトカイン産生量の定量を試みた.表皮角化細胞であるHEKaを4群に分け,1064 nmのCW DPSSレーザを用いてそれぞれ0, 0.052, 0.26, 0.52 W/cm2としてレーザを30秒間照射した.まず樹状細胞を粘膜へと誘導するケモカインCCL20の産生量をRT-PCR法を用いて測定し,さらにROSを定量するためにスピントラッピング剤DMPO (5,5-Dimethyl-1-Pyrroline-N-Oxide) を培地に添加し,細胞内のROSを捕捉し,電子スピン共鳴法を用いてレーザ照射によって産生されたROSを解析した. CCL20の発現量はレーザ照射に依存して増大したが,レーザ照射強度0.52 W/cm2では低下を示したことから,サイトカインの誘導には最適な照射の条件が存在することが示唆された.申請者らはマウスを用いた感染実験で同現象を明らかにしているが,それをin vitroで再現したことを示す結果である.また,電子スピン共鳴法によって細胞内で産生されたROSを解析した結果,レーザ強度に依存したROSの増大が認められ,レーザ照射による免疫活性化機構にROSが関与することが強く示唆された. 以上の結果から,レーザ照射によってヘムタンパクからガス分子が遊離し,ROSの産生を促進している可能性が考えられ,今後は細胞からミトコンドリアを分離し,ヘムタンパクとガス分子の関連に着目してメカニズムを解明していく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らが報告してきたマウスの感染実験において,レーザ照射に対して免疫が活性化する現象そのものは明らかにされてきたが,その詳細な分子機構については一切不明であった.本課題ではそのメカニズムを明らかにすべくヒト角化細胞を用いたin vitro実験を行い,仮説として活性酸素種(ROS)に着目し,レーザ照射に伴うROSの生成と,免疫機構に関係するサイトカインの産生を定量的に解析し,メカニズムの一端を明らかにすることを第一の課題とした. まず,細胞へ照射するレーザの照射エネルギーを均一にするため,1064 nmのDPSSレーザ光をビームシェイパーによってビーム整形し,ガウシアンプロファイルからフラットビームに整形する光学系を構築した.ビームプロファイラを用いて均一な照射が可能であることを確認し,培養細胞へ照射した.メカニズムの検討においては電子スピン共鳴装置によるROSの定量と,RT-PCRによるサイトカインの発現解析を並行して行った.概要で記した通り,電子スピン共鳴法によって得られたスペクトルはレーザの強度に依存してROSが増大することを示し,また樹状細胞をリクルートするCCL20の発現量はレーザ照射に依存して増大した.これらの結果はマウス実験で生じた現象を細胞レベルで再現していることを意味し,これにより,光の物理的作用によって免疫が活性化するメカニズムの一端を明らかにしたと言える.次年度はここで得られた成果を発展させ,レーザ照射によって活性化されるサイトカインのターゲットを広げ,分子機構をより詳細に検討する.さらにROSの定量に関しても電子スピン共鳴法による測定においてS/Nを向上させることにより,より明確なROSの定量を試みる. 以上から,光学系のセットアップから細胞照射の実証,分子レベルの解析まで進めることができたため,順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
大きな課題として3点考えられる.1点は電子スピン共鳴装置を用いたROS計測の感度向上,2点目はCCL20以外のサイトカインがマウスの実験と同様に変化しているかを確認する必要があること,また3点目としては免疫活性化の効果が得られるレーザの最適な照射条件を決定する点である. まず,電子スピン共鳴装置によるROSの計測においては,細胞内にスピントラップ剤を導入して測定したが,細胞に対するROSの生成量が少ないため,S/Nが低い計測となった.これを改善するために,細胞からミトコンドリアを抽出し,高濃度で呼吸バッファーに懸濁し,それに対してレーザ照射およびトラップ剤を導入することで,S/Nの向上が期待できる.また,CCL20以外のサイトカインについては,CCL2,CCL17,Cyclooxygenase-2,Interleukin-1 alphaについて同様にPCR法を用いて発現量を定量する.3点目の課題については,これまでの実験では連続光を用いて免疫の活性化を検討しているが,レーザパワーやpulse duty比を変え,培地の温度上昇を抑えながら最大限免疫の活性化を誘発できる条件を明らかにしていく.
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Research Products
(4 results)