2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26560237
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 一彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90193341)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バイオマテリアル / 高分子合成 / 細胞・組織 / 磁性粒子 / ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞を数十μmオーダーの化学反応容器として捕え、この内部で生じる化学反応に対して撹拌効果を与えると、細胞応答に摂動を与えられると仮説をたてた。本研究ではこれを実証することを主たる目的とし、細胞内で利用できるμ撹拌子を、ポリマー化学とバイオ界面科学により創製した。ポリスチレンを核ポリマーとして選択し、スチレンのソープフリー重合で核粒子を製造する際に酸化鉄磁性微粒子を内包させた。また、ソープフリー重合の際に、表面を被覆するためのポリマー鎖を結合できる反応性官能基を導入した。ソープフリー重合の条件を変化させて、粒経を300nm程度とした。これを基盤に、外部の磁場に速やかに応答する酸化鉄磁性微粒子の導入量の調節を行ない、重量分率で25%程度まで酸化鉄を導入することができた。粒子の異形化に際して、ここでは、新たに、物理的な方法を提案した。すなわち水溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール(PVA) の水溶液に、通常のシード重合で調製した酸化鉄微粒子内包磁性コア粒子(ポリスチレン製)の水分散液を混合した。この分散液とガラス基板に展開し、溶媒を蒸発させることでナノ粒子を含んだPVAフィルムを作製した。得られたPVAフィルムをポリスチレンの軟化温度以上に維持し、延伸することで内部に存在するナノ粒子の異形化を行った。その結果、長辺が300nm、短辺が100nmの楕円形の粒子とすることができた。その後、マトリックスであるPVAを溶解し、磁気でナノ粒子を回収することで、異型化ナノ粒子(細胞内μ撹拌子)を精製した。この粒子に回転磁場をかけることで、μ攪拌子の回転を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ポリマー合成と界面化学的手法を組み合わせ、さらにマテリアルの熱特性を考慮したプロセッシングにより、内部に25%程度の酸化鉄磁気粒子を内包した、異形化ナノ粒子の作成に成功した。これは世界最小の磁気攪拌子である。さらに、水溶液中であるが、磁気ピンセットを利用して磁場を制御することで、攪拌子の回転運動の確認ができた。このことは、細胞内で利用につながる大きな進展である。一方、細胞内に磁気攪拌子を取り込むことに関しても、表面からリビングラジカル重合によりポリマーブラシ構造体を、その分子密度と分子鎖長を制御して構築することに成功している。さらにこの表面にカチオン性官能基を集約すると容易に細胞質内に取り込めることも明らかにした。これらのことから、研究成果の進捗が計画以上に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
μ攪拌子により、細胞での化学反応を加速することができれば、これに連動した細胞応答に対して効率的に摂動を与えることができるとの仮説をたてた。さらに細胞内化学反応の変動を観察することは、細胞内での特定の分子の運動や反応を理解するために重要な知見を与えると考えられる。 細胞内においてμ撹拌子を回転させるために、細胞を個々に捕捉できるチャンバーを有する細胞接着プレートと、磁気ピンセットを改良した回転磁場デバイス作製する。細胞接着プレートは、マイクロ加工技術を利用してディンプル構造を作成し、これを鋳型としてシリコーン樹脂を加工する。細胞をディンプル構造の底部のみに捕捉できるようにするために、表面の平面部分を細胞非接着特性に優れたMPCポリマーで処理を行う。このMPCポリマーは、酸素プラズマ処理を行ったシリコーン樹脂表面に反応可能なシランカップリング基を有する 。一方、各ディンプル構造の最底部には、細胞接着性を有するオリゴペプチド(例えば細胞接着性のRGDSシークエンスを有するオリゴペプチド)や、細胞外マトリックスとして作用しているタンパク質を固定化する。このバイオ機能を有する分子種を種々に変更することで、細胞内に伝達されるシグナルを選択できる。細胞培養液に分散された細胞を、この細胞接着プレートに播種すると、細胞は平面部分からディンプル構造の底面に自然に移動し、そこで接着分子により固定化される。この状態で細胞培養液に細胞内μ撹拌子を分散させて、細胞内移行を実行する。回転磁気デバイスは、チャンバーの周囲に4個~8個の電磁石を配列し、これに順次電流を流すことで回転磁場を生じさせる。細胞の観察は、細胞の入ったチャンバーの上部より蛍光位相差顕微鏡、レーザー共焦点顕微鏡、底面より全反射蛍光顕微鏡により実施する。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、μ粒子の作成を中心として行ったが、磁性粒子は購入したが、比較的安価な試薬を利用することでナノ粒子を作成できた。また、反応スケールも比較的小スケールであったために、物品費の支出が抑制できた。さらに、磁気攪拌のための装置を試作する予定であったが、研究室にある磁気ピンセットでの予備実験で、効果が確認できたために、この部分の支出も行っていない。今後、細胞内での効果を見るために、蛍光標識した磁気攪拌子を多量に必要とすることが予想される。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、細部内での挙動を確認することが主たる目的となるために、この装置を構築するための費用が必要となる。さらに、これまでの製造プロセスを確立するための条件検討や、多量に作成するために試薬類も不可欠となる。特に、細胞親和性を付与するためのポリマー合成試薬は比較的高価で有り、物品費として必要となる。磁気ピンセットの改良や顕微鏡ユニットとの組み合わせなどに費用もかかる。このように、平成26年度に使用しなかった予算を、効率よく使用することを予定している。
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Research Products
(4 results)