2016 Fiscal Year Research-status Report
機能障害からみた慢性痛の新たな病態像の提案と理学療法の効果検証
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26560285
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
北原 雅樹 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90214808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平林 万紀彦 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (00385353) [Withdrawn]
宮崎 温子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 訪問研究員 (70643550) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 慢性痛 / 腰痛 / 運動器 / 認知行動療法 / 心理検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、運動器に関連する慢性痛の重要性に基づき、心理社会的ストレスの慢性痛に対する影響を明らかにすることにある。特に本研究では、「心理-身体反応」についてストレス暴露時の「運動制御パターン」、「緊張」、「自律神経系」から統合的に解析しようと試みるものであった。運動器に関連する痛みの中でも、罹患人口の特に多いとされる腰痛を主目的として研究を実施している。特に、平成27年度以降では、慢性腰痛症に対する非侵襲的治療の効果を検証するために、非特異的に定型的な運動療法と日常生活上の留意点を指導する『腰痛体操群』と、評価した病態をフィードバックする事で特異的な運動療法と日常生活上でのセルフマネージメントを指導する『フィードバック群』とを比較する。 平成28年度は、腰痛を含む慢性疼痛への認知行動療法的アプローチの効果について実際に患者を対象としたパイロットスタディを開始した。認知行動療法的アプローチは、キリスト教的一神教的発想(理性が感情や感覚に優越し、人間が動物と異なるのは理性を持つ点であるとする発想)がその基本として暗黙的に存在する。そのため、日本のような非キリスト教的な文化を基礎に置く社会では状況に応じて評価法や対応をかなり変えなければならないことが明らかになった。また、当初選択条件である「認知機能に問題がないこと」という基準を満たすためのスクリーニングに用いていたMini Mental State Examination(MMSE)では十分なスクリーニングができず、特に65歳以上の高齢者においては、アルコールの使用歴、薬剤の服用歴、MRI、脳波などによる総合的な診断が不可欠であることが解ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の根本的目標である「心理社会的ストレスの慢性痛に対する影響を明らかにする」という点から鑑みると、当初の研究目的からやや方向性は異なってきたとはいえ、十分な成果が出つつある。当初予想されていたよりも心理社会的因子がはるかに多種・多様に渡り、しかも複雑な相互影響を及ぼしていることが解ってきた。特に、被験者側の因子は研究計画立案時に想定していたよりもはるかに心理社会的ストレスへの反応の多様性に大きな影響があることが解った。特に、治療に訪れる慢性痛患者の多くが65歳以上の高齢者であり、ほとんどの場合慢性痛以外にも様々な疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)を合併しており、その結果としてサプリメントを含む複数の薬物の影響下にあることも多い。さらには、最近の精神・心理領域の結果から、従来考えられていたよりも早い時期から、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)を発症し始めることが明らかとなってきた。これらの状況から、被験者側の因子のうち、慢性痛に対する心理社会的ストレスに大きく影響するものはどれか、影響はどのような形でどれくらいの程度で起こるか、について調べる必要が出てきた。 そこで、精神科医、臨床心理士、理学療法士、医療統計の専門家などの協力を得つつ討論を重ね、まず最適な患者の評価法を選択することが重要であるという結論に達した。その観点から、症例検討、後ろ向き研究、小規模な前向き研究を行い、従来のMMSEのカットオフポイントでは高学歴の患者では不十分であること、MRIで特に異常治験がなくても、脳波で異常がみられる場合があること、などいくつかの重要な知見を得ることができつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、心理社会的ストレスの慢性痛に対する影響を明らかにすることを根本的な目的とし、そのために、「心理-身体反応」を測定することにより、ストレスの中枢神経系に与える影響を解析しようとするものであった。しかしながら、本邦においては慢性痛患者の心理社会的評価についての研究成果の蓄積が不十分であったため、想定していなかったバイアスを生じえる可能性が研究開始早期に解ってきた。対象となる慢性痛患者には65歳以上の高齢者が少なからず含まれ、高齢者を除外することは実験系に大きなバイアスを与えることになる。その一方、高齢者のほとんどが罹患している合併症や、合併症に対して処方されている薬剤の複数併用によって、中枢神経系にかなり大きな影響が生じ、それによって認知やさらには実験計画で主たる観察項目の一つとしていた平衡感覚に対しても強い影響が出ていることが解った。その上、相関関係は不明であるが、高齢の慢性痛患者に軽度認知障害を合併している場合が少なからずみられた。そこで、まず、中枢神経系への影響の程度を簡便かつ適切に評価する方法を検証することが重要な課題となった。 飲酒歴、喫煙歴、既往歴(特に悪性疾患の治療歴)、現在使用している薬物、などいくつかの予測因子が抽出され、また評価法としては、MMSE、脳MRI、EEG、社会歴を組み合わせて総合的に判断することが必要であることが示唆された。SPECTやウェクスラー式知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS)を併用すればより正確性があがる可能性もあるが、コストパフォーマンスの面から疑義が呈された。 今後の推進方策としては、現在までに集積した結果を統合分析して発表し、当初の目的である心理社会的ストレスの中枢神経系を通した慢性痛に対する影響を明らかにするように努める。
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Causes of Carryover |
研究代表者(北原)が大会長として、2016年11月27日・28日に第9回日本運動器疼痛学会を主催した。そのための事前準備及び事後の様々な処理に予想以上に多くの時間を取られ、そのため研究の結果が一通り出た時点で研究の遂行を一時的に中断せざるを得なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究結果は一通り出ているため、その結果の統計解析、成果発表のための学会出席、さらに成果発表のための英文推敲などに主に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)