2014 Fiscal Year Research-status Report
ヒト情動視覚路のサブリミナル・プライミング効果:曖昧恐怖顔と脳電磁場反応
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26560295
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Research Institution | Kyushu University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
田中 睦英 九州保健福祉大学, 保健科学部, 講師 (20412835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前川 敏彦 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40448436)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 顔認知 / 情動 / サブリミナル・プライミング / 事象関連電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
認知症患者は曖昧表情の判別が困難だが、表情と結びついた情動記憶は残存しやすい。この現象は識閾下(サブリミナル)で呈示された先行刺激がその直後の標的刺激の心理的評定に影響するサブリミナル・プライミング効果に関連している可能性がある。本研究では、健常成人を対象に情動視覚刺激によるサブリミナル・プライミング効果の脳内情動経路に与える影響について、モルフィング曖昧恐怖顔刺激に対する反応を128ch高密度脳波計と306ch脳磁図により解析し、その神経基盤を研究することを目的とする。 初年度は健常若年・高齢者各15名を対象とした実験を計画した。曖昧恐怖顔刺激画像(50%恐怖表情)を標的刺激とし、サブリミナル顔刺激として情動顔刺激(恐怖顔)と中立顔刺激を使用した。標的顔刺激に対するサブリミナル・プライミング効果について後側頭部(紡錘状回)での活動を中心に128ch EEGで計測し、各プライミング条件における事象関連電位(ERP)を解析した。 健常若年被験者5名(男性5名,平均年齢21.4±1.5歳)による予備実験ではプライミング条件間でERPのパターンに差は認められなかったため、顔を分割してランダムに配置した偽プライミング刺激をコントロール条件として追加し、被験者9名(男性6名、平均年齢24.1±2.0歳)で再実験した。その結果、曖昧恐怖顔刺激呈示後、約250msecに出現する陰性成分(N250r)の振幅が偽プライミング条件に比べ恐怖顔プライミング条件で有意に減弱した。N250rは同一人物や既知の人物の顔の反復呈示で振幅が増強することが報告されているが、サブリミナル情動顔刺激を用いて振幅が減弱したとする報告はない。この結果から、N250rは情動刺激によるサブリミナル・プライミング効果に鋭敏な成分と考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は健常若年被験者、健常高齢被験者各15名についてERP実験を計画したが、健常若年被験者による予備実験では恐怖顔・中立顔プライミング条件間で当初予測したような差が認められなかった。近年の先行研究では情動の程度に関わらず顔刺激は何らかのプライミング効果を示す可能性が示唆されており、顔刺激との比較のためコントロール条件を新たに追加した実験プロトコルに変更した。その結果、顔のパーツをランダムに配置した偽顔刺激の作成と刺激呈示プログラムやEEGの記録、ERP解析に係るプログラムの修正を余儀なくされた。 また実験時間が一人あたり1.5~2時間を要し、若年健常者でも疲労を伴う実験であることから、被験者のリクルートが思うように進まなかったことも計画を遅延させた一因である。健常高齢被験者の実験を行わなかった理由として、健常若年健常者の実験計画が遅れたことと、予想以上に健常若年被験者の身体的疲労度が大きく高齢被験者を対象とした実験実施については慎重を期す必要があったことが挙げられる。高齢者を対象とした実験計画については、実験プロトコルの変更も含めた実施の可否について再検討し、平成27年度~28年度上期は健常若年被験者を対象としたERP実験ならびに脳磁図実験を中心に実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験経緯から、健常若年被験者の1~2割は脳波へのノイズの混入や眼球運動などのアーチファクトが混入により解析対象データから除外を余儀なくされている。また暗室での視覚実験で疲労を伴いやすい上、実験が長時間に及ぶことから、被験者のリクルートに多くの時間を割いているのが実情である。より効率よく被験者を確保し円滑に実験計画を進める上で、実験を実施している九州大学大学院医学研究院臨床神経生理学教室で実施している他の研究と共同で被験者募集を行い、被験者のリクルートに係るエフォートを軽減する。当初計画ではERP実験の被験者を15名としていたが、昨今の専門誌の傾向では20名程度は確保する必要があることから、ERP実験、脳磁図実験とも被験者数を20名に変更する。また健常高齢者を対象とした実験については被験者の心身の負担を考慮して健常若年被験者の実験計画を優先し、その結果次第で再検討する。脳磁図実験については九州大学病院オープンラボの脳磁計の使用単価が1時間30千円から40千円に上がっており、当初計画の健常若年者・高齢者併せて30名の実験は予算上困難になる可能性があり、その場合は健常若年被験者の実験を優先するよう変更する。
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Causes of Carryover |
平成26年度計画では健常成人、健常高齢者 各15名の脳波実験を実施する予定であったが、対照群となる健常成人のデータ10名分中、4名ほどのデータをノイズ等の問題で解析対象から除外したため、次年度も健常成人の実験の継続が必要となった。また、予備実験後の実験プロトコルの変更や当初予期していなかった脳波の成分が確認されたことから解析作業に時間を要し、当初計画に若干の遅れが生じた。これらの理由により、健常若年被験者の実験並びに解析作業が次年度上期に繰り越され、健常高齢者のリクルートや実験の実施は早くても次年度下期以降に繰り越しとなったため。 また研究分担者(前川敏彦)が平成26年度分分担金が未使用であったため、次年度繰越となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
10~15名の実験・解析を実施するための謝金と交通費(400千)、実験打ち合わせに係る旅費/交通費(150千)、国際学会での演題発表に係る演題登録費、参加費、旅費(Society for Neuroscience2015, Chicago)(300千)、国内学会での演題発表(第45回日本臨床神経生理学会,大阪)(100千)、英文誌投稿に係る英文校正・投稿料(100千)、必要物品の購入(外付けHDD、iPad)(100千)
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Research Products
(1 results)