2014 Fiscal Year Research-status Report
片麻痺患者の車いす上の傾き姿勢は変えることができるか
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26560297
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
八田 達夫 北海道大学, 大学院保健科学研究院, 教授 (50189560)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸上 博俊 北海道大学, 大学院保健科学研究院, 助教 (30431315)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 車いす / 呼吸代謝機能 / 姿勢 |
Outline of Annual Research Achievements |
(目的)我々は新たな概念に基づき骨盤サポート付き車いす(NW) (Atsuki Ukita, Tatsuo Hatta. et al, in press) を開発した。高齢者 (N. Sawada, T. Hatta. et al, in press)、片麻痺者(八田他,2015)の姿勢の改善が得られた。本研究では第1段階としてNWの呼吸機能への影響を調べた。 (方法)対象は健常者23名、年齢は22.6±1.3才、身長は163.8±9.7cm、55.9±8.5kgである。NWと標準型車いす(SW)に座らせた。障害者を想定し、脊柱後彎位にて頭部後屈(SWU)、前屈(SWD)を設定した。肺活量(FVC)と一秒率(FEV1.0)をスパイロメーター(ミナトAS507)で計測し、呼吸数(Rf)、一回換気量(VT)、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)を呼吸代謝システムCPET(COSMED)にて計測した。 (結果)FVCでSWUは2.21±0.6l、SWDは2.20±0.7l、NWは2.61±0.7lと有意にNWが増加した。FEV1.0でSWUは1.89±0.6l、SWDは1.90±0.7l、NWは2.28±0.8lと有意にNWが増加した。RfでSWUは17.18±3.6回、SWDは16.73±3.5、NWは15.89±3.7回、VTでSWUは0.45±0.1l、SWDは0.46±0.1l、NWは0.50±0.2lと、SWDと NWは有意な差であった。NWでVTは増加し、Rfは減少した。VO2、VCO2は差がなかった。 (考察)NWでは肺活量と一秒量が改善をみた。SWの低下は、胸郭の沈みにより腹部が圧迫され横隔膜運動が阻害されたこと、及び呼吸補助筋による姿勢保持の代償が考えられた。VTとRfは逆相関があった。VO2、CO2に差がないことより、呼吸代謝は一定に調節されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、我々の新開発した車いす(NW)が使用者の姿勢を改善するものであることを前提としている。その姿勢改善が得られたうえで、呼吸代謝機能が改善すると仮説を立ててた。そこで、健常者を対象として姿勢の改善と呼吸機能が関連するか否かを調べることから開始した。23名を標準型車いす(SW)を用いて臨床現場でよく観察されるいわゆる「滑りすわり」にて座らせた。「滑りすわり」は骨盤が後傾し、胸郭は後彎する。多くは下を向き俯くか、頸を過伸展させて顎を挙げる。加えて左右どちらかの方向に傾くこともある。このような「滑りすわり」姿勢と我々が新開発したNWで得られる姿勢を比較をすることとした。NWの姿勢では骨盤後傾は防止され、胸郭の後彎も改善し、胸が開く(Atsuki Ukita et al, in press、N. Sawada, et al, in press、八田他,2015)。今回の研究成果によって、努力肺活量(FV)、一秒量(FEV1.0)の比較ではNWに有意な改善があった。また、NWでは一回換気量(VT)の増加と呼吸数の減少があった。NWではゆっくりとした深い呼吸になることが示された。酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)にはSW、NWに差がなかった。呼吸代謝そのものは中枢性にコントロールされていることが示された。以上により車いす姿勢の違いは呼吸に影響を及ぼすことが確認できたとともに、一方で代謝には変化がない可能性も示された。深いゆっくりとした呼吸は心身機能に効果をもつと考えられるが、その機能的な意味付けは今後の課題である。現在までに基礎的なデータが収集された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの健常者の結果より、新開発車いす(NW)による姿勢の違いが肺活量、一秒量、1回換気量、呼吸数に影響を及ぼすことが示された。一方、一回換気量は呼吸数と逆相関し酸素摂取量と二酸化炭素排出量には影響を及ぼさないことが認められた。今後は、片麻痺患者を対象として同様のデータを取る予定である。現在までの研究においては、健常者であえて「滑りすわり」を設定したが、片麻痺者においては自然に座った結果としての姿勢でなくてはならない。まず、片麻痺者においてSWとNWでは姿勢が異なることをより具体的に確認する必要がある。NWでは片麻痺者の姿勢が改善することを示し、その上で呼吸代謝機能を計測する。既に、片麻痺者を対象とすることについて倫理委員会への申請、施設への依頼は済ませており、近々臨床現場でデータ収集の予定である。ただし、スパイロメーターにて行う肺活量検査については、対象によっては血圧上昇などのリスクもあり、すべての対象者には困難であることも予想される。その場合は呼吸代謝機能のみを計測する。
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Research Products
(1 results)