2014 Fiscal Year Research-status Report
測光機能を持つパッチ電極を用いた深部脳組織神経活動の電流および蛍光測光解析
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26560464
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大森 治紀 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30126015)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平井 康治 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (30648431)
中島 則行 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80625468)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | パッチ電極 / 測光電極 / 聴覚神経核 / 細胞内Ca応答 / オレゴングリーンBAPTA1-AM / 電場電流 |
Outline of Annual Research Achievements |
測光電極は多光子顕微鏡解析が不可能な脳の深部(3mm~7mm)での神経活動を光応答そして電気応答として同時に解析する実験手法として我々が開発したパッチ電極を光導体とする測光機能を持った電極である。本研究では測光電極法を応用する事で聴覚刺激に応ずる神経活動を幾つかの神経核で記録し応答特性を比較した。音は内耳有毛細胞で電気信号に変換され聴神経により脳幹蝸牛神経核に伝播される。さらに下丘―視床内側膝状体を経て聴皮質に伝播される。この間聴覚の様々な情報が抽出処理されることで我々の聴感覚は成り立つ。トリの上向性聴覚神経投射系の中で、蝸牛神経核に相当する大細胞核(NM)、下丘(IC)、そして聴皮質(Field-L)での聴覚電場電流および対応する細胞内Ca応答を測光電極を用いて記録した。神経細胞には事前にOregon-Green-BAPTA-1-AMを充填した。488nmレーザー励起に応じる530~550nm蛍光によるCa応答は神経核により変化した。聴皮質Field-Lでは電場電流を超えて持続時間の長いCa応答が記録できた。下丘では電場電流Ca応答共に一過性であった。蝸牛神経核では一過性の電場電流は記録できるもののCa応答は極小であった。パッチ電極から投与するK電流阻害、GABAシナプス阻害の薬物により始めて自発発火が起こり極僅かなCa応答は記録できた。以上の結果は聴覚情報は上向するに連れより大きなCa応答を伴う事で複雑な情報処理を行うものと考えられる。なお本法の応用で最も困難な点は指示色素を神経細胞に充填する過程であり今後の改良が必要である。さらに今回の研究は化学合成された指示薬を用いた研究であったが、遺伝学的に脳の部位特異的に発現させた蛍光蛋白を応用する事は重要であり、Caイオンだけでなく様々な情報伝達分子の動態を神経活動と同時に記録解析する手法として確立する事を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高解像度の蛍光顕微鏡システムが脳神経活動の解析に応用されることで多くの新しい知見が得られて来た。しかし光の散乱により1mmを超える深部の脳組織では顕微鏡観察には光学的な限界がある。本研究はパッチ電極を光導体として応用する測光電極法を開発する事で、脳の深部で蛍光分子標識された神経細胞を同定し電気的な応答と同時に光応答を記録する事で個体の脳機能解析を行った。これまでの研究では分光機能を持ち検出感度の高い分光器を用いた光応答の解析を主に行って来た。確かに感度は高いが、時間分解能に限界があり高速の光現象には追随できなかった。本研究では光電子増倍管を検出器として用いる事により、ミリ秒の精度で光応答を記録する事が可能になった。ヒヨコ個体脳を用いて音刺激に応ずる聴覚神経核に本法を応用することで、電気的な聴覚応答は必ずしも全ての神経核で細胞内Ca応答を伴うのではなく、より上位の神経核ほど強力なCa応答を伴う事を明らかにした。これは脳の情報処理の階層性にも対応しており、測光電極法が一般に広く応用の出来る実験手技である事をも示している。またこの過程で、測光電極法のもつ幾つかの問題点を明らかにした。最大の問題は神経細胞を蛍光色素で標識する事であり、標識の困難さから当初計画した膜電位応答解析への本法の応用は平成26年度は断念した。しかしオレゴングリーンBAPTAを用いて細胞内Ca応答を記録解析する過程で直面した多くの問題は解決する事ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は順調に推移しており、研究計画に大きな変更はない。一方で既に述べた様に本法の応用上最も困難な事は、対象とする神経細胞を安定して蛍光標識する事である。これまでは膜透過性をもつ合成蛍光指示薬を事前に注入する事で、聴覚応答に対する細胞内Ca応答を解析して来た。蛍光応答に対する感度は神経細胞を標識した色素の濃度に依存し濃度が高い程信号雑音比は高まる。また、事前注入による場合は神経核の脳内の位置によっても染色の困難さが異なる。脳室に近く位置する神経細胞あるいは神経核は注入した色素液の漏れにより染色は困難である。こうした困難を解決できるとすればそれは遺伝学的な手法で標的とする神経核ないし神経細胞を標識する事である。優れたCa指示機能をもった蛍光蛋白は既に開発されており、中には充分なCa応答速度をもつ指示性蛋白質もある。今後は遺伝子改変動物あるいはウィルス等を用いてこれらの指示性蛋白質を標的細胞に発現させることで安定した蛍光応答を記録する事を目指す。また、Ca以外の蛍光指示蛋白にも応用する事で、より一般的な脳機能の解析手段として確立したい。
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Causes of Carryover |
平成26年度は夏までの早い時期に計画したデータを取る事ができたので、新しく設備試薬を購入する事無く教室内の消耗品および設備で研究を進める事ができた。したがって想定していた、光学機器、光学フィルターおよび試薬などを購入使用する事が無かったことにより次年度使用額が生じた。 夏以降は、論文を書く事に専念した結果、論文は完成し、平成27年3月には最終的に学術誌(Journal of Neurophysioology, doi: 10.1152/jn.00005.2015.)に掲載が許可された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は定年により退職し研究代表者を研究分担者の1人に変更する事を計画していたが、学内で特任教員として実験室を使用し研究を継続できる事になったので、平成27年度も研究代表者として本研究を進める。特に遺伝子改変動物あるいは遺伝学的に発現させた蛍光指示蛋白を発現した神経細胞への測光電極法の応用を試みる。その為に次年度使用額は適宜光学干渉フィルター、光学機器、実験動物、英文校閲、論文掲載料等で使用する。
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Research Products
(6 results)