2014 Fiscal Year Research-status Report
光学的手法による超高感度原子磁気センサを用いた新原理脳機能計測への挑戦
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26560466
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 哲生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40175336)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 脳神経磁場 / MEG / fMRI / 原子磁気センサ / 光ポンピング |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトの高次脳機能に関する謎の解明は神経科学・医療・工学など様々な分野に大きな貢献が期待できる.この高次脳機能研究においては大脳皮質に存在する神経細胞の活動を非侵襲的に計測する“脳機能計測”が極めて重要な役割を担っている.現在,この脳機能計測法には計測原理の異なる複数の方法が用いられている.中でも脳磁図(MEG)は高い時空間分解能が特長である.本研究では、光学的手法による超高感度原子磁気センサによりMEG計測を実現し,さらにMEGで捉えられるのと同じ神経磁場に基づく新原理のfMRIを開発することを目的に進められた. 初年度は、主として光学的手法によって従来MEG計測に用いられて来たSQUIDを凌ぐ超高感度磁気計測を実現するため,我々がこれまで基礎研究を行って来た光ポンピング原子磁気センサの高感度化と多点同時計測を目指し,我々のオリジナルの方式であるK原子とRb原子という2種類のアルカリ金属を混合したハイブリッド型原子磁気センサの性能向上を進めた.ブロッホ方程式に基づく詳細なシミュレーションを行い,ハイブリッド型原子磁気センサによりスピン偏極の高い空間的均一性を実現できることを示した.また,このハイブリッド型原子磁気センサを用いた多点同時計測法を提案すると共に実測によりその有効性を示す事ができた. また,初年度は光ポンピング原子磁気センサのモジュール化を行い,製作した1チャネルのモジュール型センサのプロトタイプを用いてMEG計測を実施し,被験者の開閉眼に伴う視覚野の神経活動を捉えることに成功した。さらに,スピンロック撮像法を用いて得られる MR 信号に脳神経磁場の位相が与える影響について検討を行った.シミュレーションとファントムを用いたMRI撮像実験により振動磁場の位相に依存した MR 信号変化を捉えられる事を示す事に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画していた原子磁気センサの高感度化とモジュール化については1チャネルではあるが脳磁図の計測が可能な超高感度を達成することができ,さらに神経活動をMR信号変化として捉える新原理についても理論とファントム実験により検証できたことから,初年度の計画は全て完了でき,さらに次年度に計画していた研究の一部についても既に着手し順調に成果がでており,当初の計画以上に進展していると言う事ができる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,モジュール型原子磁気センサの多チャネル化を進め,それを用いた脳磁界分布の計測について,まず磁場強度が比較的大きい自発脳磁界律動の計測から開始する.自発脳磁界律動とは10Hzや40Hzといった特定の周波数ピークを有するリズミックな神経磁場であり,脳神経活動に伴い例えば10Hzの律動では振幅が減少することが知られているものである.視覚刺激といった特定の感覚刺激の呈示に伴うこの自発脳磁界律動の時空間的変動を原子磁気センサで計測可能である事を確かめる.その際,既存の全頭型MEG装置による計測との比較検討を行いながら研究を進める.続いて,より強度の小さい事象関連脳磁界の計測へと研究を進める. さらに,次年度は脳神経磁場により神経細胞の含まれるMRボクセルの磁気共鳴信号変化を直接捉える新原理のfMRI計測に関して,理論と実測によりその実現可能性を実証することを目指す.脳神経磁場をMRIによって直接計測しようとする試みはこれまでもあったが,既存の高磁場MRIではプロトンの磁気共鳴周波数は数十MHzであり,脳神経磁場にはその周波数帯の成分はなく,磁気共鳴信号に変化が生ずる機序は脳神経磁場強度自体による静磁場強度の変化に対応した共鳴周波数シフトまたはディフェージングということになるが,3Tの静磁場に対し神経近傍の磁場は大きく見積もっても10桁以上小さく,共鳴周波数シフトもしくはディフェージングではほとんど信号変化は期待できない.一方,我々は初年度の研究からスピンロックシーケンスを利用することで脳神経磁場による磁気共鳴によってマクロの磁化が倒れMR信号が変化することを確認した.この結果を受けて,主に7T動物用MRIを用いたファントム実験と0.3Tヒト用MRIを用いた実験によりこの新手法の実現に挑戦する.
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Causes of Carryover |
センサの高性能化と新原理の脳機能計測の実現に向け,初年度に比べ次年度は実験による実証研究の比重が高くなるため,実験に必要な物品費が申請時の計画より次年度の方が多く必要となるため使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費は項目毎に以下の様に使用を計画している. 物品費については,原子磁気センサの性能向上のための実験,モジュール化研究,脳磁図計測,脳神経磁場イメージング実験のための電子回路部品,光学部品,パソコン,研究遂行に必要な書籍や研究会資料代などを合わせて96万円弱.旅費については,研究成果の発表,資料収集,調査のために合わせて40万円.実験補助に対する謝金には10万円.その他として国際会議,国内会議の参加費,英文校正,論文別刷代などに15万円.
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