2015 Fiscal Year Research-status Report
暮らしの哲学:生権力論を起点とした現代生活の総体的把握とミクロ分析
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26580003
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山森 裕毅 大阪大学, コミュニケーションデザイン・センター, 研究員 (00648454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保 明教 一橋大学, 社会(科)学研究科, 講師 (00723868)
渋谷 亮 成安造形大学, 芸術学部, 講師 (10736127)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ハンナ・アレント / 場所・居場所 / 家事と育児 / ひとり親 / 戦後の家族 / 料理研究家 / 主婦論争 / 家庭内個食 |
Outline of Annual Research Achievements |
▼山森:昨年度の成果論文「制度分析のプロトコル」が2015年5月に『流砂』8号に掲載された。また、週二回のペースで精神科グループホームでフィールドワークを行った。その関連で10月24日に行われた日本デイケア学会のシンポジウムに登壇した。精神疾患を持つ病者の地域生活の支援するために精神科デイケアがどういう思想を持つ必要があるのかについて発表を行った。さらに、2月25日に発行された雑誌『流砂』10号にて、ハンナ・アレントの思想を応用する形で、論文「場所と過程をめぐる試論(一):暮らしを支える場所の最小構造」を発表した。 ▼渋谷:近代における「労働」のあり方という観点を取り入れ、家事や育児とそれ以外の労働との関わりに焦点を当てながら研究をすすめた。第一に、ハンナ・アーレントの議論を労働の変遷という観点から読み解くことで、近代において家事や育児が〈労働であると同時に労働でない〉という両義的位置を担いはじめたという着想を得た。第二に、二次大戦後の日本において、家事や育児の両義性がどのよう扱われていったのか、および家庭外の労働と家事・育児のあいだの葛藤がどのように取り組まれていったのかといった問題を、松田道雄、桐島洋子、ワーキングマザーに関する文献、育児マンガなど、一般に訴求力の強い文献を通して、住居や食といった暮らしの変遷と関わらせながら検討した。 ▼久保:現代料理と情報技術の結びつきに焦点を当てた初年度の調査・分析の成果を踏まえた上で、両者の結びつきの歴史的背景をより詳細に解明するために、戦前から戦後初期、高度経済成長期から消費社会化への移行期における家庭料理をめぐるインフラ・技術・情報・言説の変化を集中的に検討した。具体的には、生活史研究家や料理研究家の著作を収集・精読し、また時代毎に変化する料理レシピに基づいた定期的な調理・賞味・分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
▼山森:精神科グループホームでの経験に基づいて、前年度の報告書に予定として示したアレントの思想とサードプレイス論を用いた場所論の研究を、論文の形で提出することができた。この論文において、本研究の目的のひとつである「暮らしの分析方法の提出」をある程度達成できたのではないかと考える。 ▼渋谷:論文等の研究成果はないが、家事・育児の不合理な側面と人々がどのように取り組んできたのかを探求するという点では順調に進んでいる。特に27年度は、家事・育児の不合理な面自体の歴史性を、アーレントの議論から捉えなおすことができた。さらに60年代から90年代頃までの日本の育児・家事の変遷を、育児の民主化、育児の娯楽化、育児の効率化という観点から整理し、育児・家事を組み立てるための基準ないし合理性の変遷を把握することができた。現在、研究成果の一部をまとめた論文を執筆中である。聞き取り調査に関しては、27年度は子どもを対象とした聞き取りも行い、個々人の生活史を収集するという意味で、十分なデータを集めることができている。ただし、書きおこし作業の進行度は予定よりやや遅れており、また分析をするための観点がいまだ完全には定まっておらず、歴史研究と聞き取り調査を結びつける観点もいまだ不十分である。 ▼久保:初年度の研究で確立した「家庭料理の情報化は、家庭料理における家庭外料理の包摂と排除が生じる契機として捉えうる」という視座に基づき、家庭外料理の包摂と排除を担う主要な媒介者としての料理研究家に焦点を絞った上で、戦後に活躍した主な料理研究家の著作やレシピを検討することにより包摂と排除の歴史的変遷を分析しただけでなく、包摂と排除の論理を解明する糸口を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
▼山森:引き続き、場所や居場所の形成とその意義に関する研究を行っていく。28年度は、グループホームのフィールドワークからは離れるが、そこでの経験を念頭に置きつつ、レヴィナスやフーコーの場所論を用いて研究を行っていく予定である。 ▼渋谷:研究成果のまとめに重点を置いてすすめていく予定である。具体的には5月までは、現在執筆中の論考を書き上げることを優先する。また聞き取り調査に対する分析の観点を早急に定めると同時に、書きおこしと分析を順次進めていく。その上で、これまで行ってきた理論研究、歴史研究、フィールド研究をむすびつけながらまとめていく作業に取りかかる。またこれまで十分に検討できなかった戦争未亡人の歴史や育児雑誌の検討などもすすめる。 ▼久保:家庭内料理と家庭外料理を媒介する者としての料理研究家の系譜を検討した二年目の成果を踏まえた上で、媒介者としての料理研究家の役割が希薄化し「家庭料理」というカテゴリー自体が不安定なものとなっていく19990年代から現代に至る変遷をインタビュー調査や文献調査を通じて集中的に検討し、最終的に現代における家庭料理と情報化をめぐる基本的な構造、問題点、今後の展望を明らかにする論文や著作を発表する。
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Causes of Carryover |
▼山森は、本年度予定していた旅費を自費で捻出したため、その分の経費が残ることになった。▼渋谷は、国会図書館での育児雑誌等の調査を予定していたが、時間の調整がつかず今年度に行うことができなかった。また聞き取り調査の書きおこし作業について、分析の観点が十分に定まっていないこと、および学内で作業依頼を行う際に調整に手間取ったことなどのため、予定していた分の書きおこしをすべて行うことができなかった。▼久保は、主な調査対象を料理研究家の著作やレシピ本に絞ったために、文献購入の額を抑えることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
▼山森は拠点を関東に移すため、関西での研究会参加のための交通費として使用する。▼渋谷は28年度は育児雑誌の調査を行うと同時に、学外への書きおこし依頼も視野に入れ、そのために繰越金を使用していく。▼久保は次年度にはポスト料理研究家時代の家庭料理と情報化の関連を探るため、特に膨大な数に上る家庭料理関連雑誌の複写や古書購入の費用に充てる計画である。
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Research Products
(3 results)
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[Presentation] 余白と濁り2015
Author(s)
山森裕毅
Organizer
日本デイケア学科
Place of Presentation
大阪国際会議場
Year and Date
2015-10-24 – 2015-10-24