2015 Fiscal Year Research-status Report
被災地における「哲学的対話実践」の理論的基礎付けと展開
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26580005
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
西村 高宏 福井大学, 医学部, 准教授 (00423161)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近田 真美子 東北福祉大学, 健康科学部, 講師 (00453283)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 哲学プラクティス / 臨床哲学 / 対話 / 東日本大震災 / 被災地 / 哲学カフェ / 看護学 / 専門性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目は、初年度の成果を引き継ぎながら、以下2つの研究課題を設定し、それぞれにおいて一定の成果を得ることができた。 研究課題1:被災地で行なってきた「哲学的対話実践」の意義を、1980年代以降活発になり始めた「哲学プラクティス」という「ニュー・パラダイム」(Peter Harteloh)の文脈において理論的に基礎付ける作業。 研究課題2:「てつがくカフェ」、「東日本大震災を〈考える〉ナースの会」の実施および批判的検証。
研究課題1については、アメリカ哲学実践家協会に所属する「哲学カウンセリング」の第一人者Peter B. Raabe氏や、イスラエルのHaifa大学のRan Lahav氏、さらには「哲学プラクティス」の研究者として著名なSchlomit C. Schuster氏のテキストを丁寧に分析し、私たちが被災地で行なってきた「哲学的対話実践」の活動の意味(効果)を理論的に基礎づける作業がある程度まで出来つつある。その成果は、最終年度に、国内外の学会にて発表する予定である。 研究課題2については、「てつがくカフェ(仙台市教育委員会、せんだいメディアテークとの共同事業。研究代表者の西村が担当)」を、仙台市内を中心に8回、その他の地域(盛岡、福島、東京、神戸など)で約9回、合計17回開催することができた。さらに、「東日本大震災を〈考える〉ナースの会(研究分担者の近田が担当)」については、日本災害看護学会第17回年次大会にて、災害看護の専門性に関する「哲学的対話実践」のWSを開催し、多くの参加者とともに「専門性」に関する対話の場をひらくことができたことは大いに収穫であった。これについては、次年度もエントリーを行なう予定である。また、12月には、「被災地における『哲学的対話実践』の可能性?」という科研研究会を東京大学にて開催し、上記の実践に関する理論的な検討も行なうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(1)近年、欧米を中心に「哲学の新しいパラダイム」として展開されつつある「哲学プラクティス」の最新の動向を調査・研究し、これまで体系的なかたちで日本国内に紹介されてこなかった「哲学プラクティス」の原理およびその方法論を積極的に紹介すること、(2)またそこでの研究成果をもとに、2011年以降、仙台市と連繋しながら東日本大震災の被災地で行なってきた、「哲学プラクティス」の一形態である「哲学カフェ」という「対話実践」について批判的検証を試み、被災地における「哲学的対話実践」の具体的なモデルとその可能性を提案することである。さらにこの実践は、震災時、とくに看護などの専門職領域において大きなニーズがあったことから、(3)専門職における「哲学的対話実践」の可能性についても具体的な成果を明示すること、の3つである。
(1)と(2)については、昨年度以上に、被災地において「てつがくカフェ」を精力的に実施することができており、また、その活動の理論的な基礎付けの作業も着々と進んでいる。その成果は、次年度で発表する予定である。 また、今年度は、(3)についてもある程度の成果を獲得することができた。とくに、12月の日本災害看護学会第17回年次大会では、「災害看護と専門職」に関する「哲学的対話」のWSを行ない、多くの看護師の方々と対話を編むことができた。今後は、これらの成果をもとにしながら、被災地における「哲学的対話実践」の可能性について理論的に基礎づける作業を遂げていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の一番の目的は、東日本大震災以降、被災地において行ってきた「哲学的対話実践」が、なぜあそこまでに被災者にとって意味があるものとなりえていたのかを批判的に検証したうえで、可能な限り理論的に基礎付けようとすることである。そのため、今後の研究の推進方法としては、今年度から始めている研究会(「哲学的対話実践の社会接続の可能性?」)という手法を通して、おなじく〈対話〉という営みを深く社会へと接続する活動を行なっている研究者・実践家からヒントを得ながら進めていきたいと考えている。すでに行なった第1回目では、「〈接続〉すべき社会要素をつくり出す対話」というタイトルで、元大阪大学教授の中岡成文先生にお話しいただき、東京大学教授の榊原哲也先生にコメントをもらっている。現在、その第2回目を調整中である。
また、すでに述べたように、被災地での「哲学的対話実践」の試みは、とくに看護などの専門職領域において大きなニーズがあったことから、看護学領域の専門職者や被災地支援に携わってきた看護師たちと綿密に連携し、これまでの文献研究やフィールドワーク調査などの成果をもとに、医療専門職における哲学的対話実践の可能性について、いよいよ具体的なモデルを構築していく予定である。そのためにも、今後も日本災害看護学会などを軸に、さまざまな看護系の複数の学会で「災害と専門職性」に関するWSを行ない、丁寧に意見交換を行なっていく。
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Causes of Carryover |
当初は、2年目の研究課題の軸のひとつとして海外での研究発表などを行なうことで、「哲学プラクティス」に関する海外の研究者および実践家と意見交換をする予定であった。実際に、2015年9月に、クロアチアで開催されたInternational Society for Clinical Bioethicsにはすでにエントリー済みであったが、(1)研究代表者の異動時期と重なったこと、(2)その国際学会に、「哲学プラクティス」に関連のありそうな研究者たちが参加しそうもなかったことなどを理由に取りやめた。 また、研究を進めていくにつれ、海外に比べて自然災害の多い日本の中にこそ、被災地における「哲学的対話実践」の可能性に関する研究に重要なヒントを与えてくれそうな研究者および実践家が多いことも見えてきたため、むしろ国内において研究会を開催する方向へと舵を切り返したこともその要因といえる。そのような理由から、「次年度使用額」が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、これらの予算を繰り越し、その予算をもとに、計画的にフィールドワーク調査および研究発表を行っていく予定である。上記の「理由」から言えば、とくに「(哲学的)対話実践」に関する研究会をとおして、国内外の「哲学プラクティス」の理論家および、「対話」という営みを深く社会へと接続させている実践家などを招へいし、最終的な目的を達成する予定である。すでに、この計画は具体的なものと成っており、最終年度の6月に、大阪大学にて開催予定である。
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Research Products
(5 results)