2014 Fiscal Year Research-status Report
ボン教範疇論の研究:仏教アビダルマ思想との比較を通じて
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26580007
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
熊谷 誠慈 京都大学, こころの未来研究センター, 准教授 (80614114)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ボン教 / アビダルマ / 五蘊 |
Outline of Annual Research Achievements |
チベットには7世紀頃に仏教が伝来し、13世紀のインド仏教衰滅後も独自の発展を遂げてきた。チベットには仏教伝来以前よりボン教という土着宗教が存在していたが、このボン教は、仏教伝来以降、多くの仏教思想を自らの教義に取り込んでいったとされる。 本研究課題では、ボン教という宗教が、仏教という他宗教の思想をどのように受容してきたのか、またそこにいかなる類似性と相違性が存在するのか、他宗教の思想受容の過程とその意義について理解を深めることを目標に、チベット古典宗教哲学文献を実際に精読・分析してきた。 1年次(平成26年度)には、14世紀のボン教徒Tre ston rGyal mtshan dpalの作成した宗義書Bon sgo gsal byedの、アビダルマ認識論に関する箇所を精読し、仏教のアビダルマ認識論と比較考察することで、ボン教の「こころ観」の特徴を探り出した。その後、ボン教アビダルマの根本テキストであるSrid pa’i mdzod phugの11章(十二処)の全文を精読した。加えて、10章(五蘊)のうち、色蘊、受蘊、想蘊の節を精読した。 その結果、ボン教の五蘊説および十二処が、ヴァスバンドゥ著『倶舎論』や『五蘊論』、およびアサンガ著『大乗阿毘達磨集論』など、仏教思想から大きな影響を受けていることが判明した。その中でも、五蘊に関しては、特にヴァスバンドゥの『五蘊論』からの影響が強いことが判明した。その考察結果については、第17回国際仏教学会(International Association of Buddhist Studies, 8月22日, ウィーン大学)にて「Bonpo’s Absorption and Development of the Buddhist Theory: with a focus on Abhidharma Theory」という題目にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年次(平成26年度)には、インド仏教文献およびボン教文献の精読、テキスト校訂、試訳の作成のいずれも、当初の予定通り順調に進めることができた。さらに、ボン教文献に見られる思想を、インド仏教文献、特にヴァスバンドゥ著『倶舎論』・『五蘊論』およびアサンガ著『阿毘達磨集論』に見られる思想と比較考察した。その考察結果については、上述の第17回国際仏教学会にて発表した。当初、2年次に行う予定であった学会報告を、1年次に行うことができたのは大きな進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年次(平成27年度)には、インド仏教文献およびボン教文献の精読、テキスト校訂、試訳の作成をさらに進めていく予定である。 Srid pa’i mdzod phug(11世紀)については、五蘊に関する第10章全体の校訂テキストならびに試訳を作成する。また、ニャンメー・シェーラプギェルツェン(14世紀)による注釈書Srid pa’i mdzod phug kyi ‘grel ba ‘phrul gyi sgron meの第10章の全訳を完成させ、Srid pa’i mdzod phugおよびその注釈書の思想体系を整理する。その上で、テトゥン・ギェルツェンペル(14世紀)著『ボン門明示』における解釈との比較を行う。その上で再度、ボン教文献と、インド仏教の学僧ヴァスバンドゥ著『倶舎論』・『五蘊論』およびアサンガ著『阿毘達磨集論』の思想との比較対照を行う。その考察結果については、平成27年度中に学会や研究会にて発表し、論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
テキスト入力や資料整理が当初の予定より効率よく進んだため、人件費を抑制することができ、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たな1次資料、2次資料の情報を入手したため、それらのテキスト入力および資料整理作業に充当する。
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