2014 Fiscal Year Research-status Report
指導者および受講者のリアルタイム筋電図を用いた新たなピアノレッスン手法の開発
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26580017
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
石垣 享 愛知県立芸術大学, 美術学部, 教授 (60347391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
掛谷 勇三 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (80381747)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 筋電図 / 音楽 / レッスン / バイオフィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
本取り組みへの配分額が少なかったことから、平成26年度は購入可能な筋電図(以下、EMG)測定機器の選定と現有している機器とそれとの相違を抽出し、研究目的となる視覚的バイオフィードバックレッスンの可能性について検討を行った。 6月に購入した機器は、ロジカルプロダクト製の無線式筋電計(以下、EMG)であるが、セットアップの不具合により7月末に業者から最終納品されたが、しかし波形表示における対応が8月4日まで遅れたことにより、夏の実験が不可能となった。ただし、既存の機器を用いて、学内の音楽研究科大学院生を対象に、バイオフィードバックレッスン(脱力と無駄を無くすことを目的とする)を実施して、その効果の検証を行った。 まず、最初の取り組みは、ピアノ打鍵時に何処の筋を使用して打鍵をしているのかを、大学院生10名を対象に和音打鍵で検証を行った。積分EMG(筋出力)と発揮された最大音圧間との関係は、前腕および上腕の筋群の関与が大きく、それらは体幹に近づくに連れて音量調節への貢献度は低くなったことから、前腕部の筋群を主として使用していることが明白となった。ただし、長橈側手根伸筋および浅指伸筋の相関係数が高いものの左右同程度であることから、打鍵時の短潜時伸張反射の可能性が考えられ、演奏者が意図して使用している筋群では無い可能性が示された(第65回 日本体育学会で発表)。そこで、これらの筋群を主として利用する奏法をEMG波形から抽出したところ、それはオクターブ打鍵時であった。オクターブ打鍵は、指を大きく開き打鍵することから指伸筋の関与が明確であり、連続するオクターブ打鍵時には、打鍵前後であっても筋活動が認められる事から、脱力と無駄な筋活動を無くすことを目的にするなら、本筋は、リアルタイムEMG波形を用いたフィードバックレッスンのターゲットに最も適していると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本取り組みの究極の目的は、このレッスンシステムの特許を取得することであるが、例えそれが不可能であっても、本学が最初に世に公表したレッスンシステムとなることである。 まず、特許に関しては、本学においてそれを統括し、取得までの指導を受ける人員および機関が存在しないことから、昨年度から大学に対して働きかけている。しかし、愛知県または名古屋市で開催されている特許取得に関する無料相談の場所を伝えられただけであった。 本研究の特色であるバイオフィードバックレッスンは、脱力と無駄を無くすことを目的としたが、果たして何を目的としたら最も効果的であるのかについての検証を行うことができた。それは、平成26年度の研究結果により、(1)最も効果が期待される奏法、(2)ターゲットとする筋、(3)無駄である筋活動の期間、(4)脱力すべきタイミングの4点についてであり、それらをシステムとして示すと、オクターブ打鍵時(1)の浅指伸筋(2)の筋活動レベルを、打鍵する前に鍵盤上に指を置いた時点(3)で低くできるのか、打鍵後(4)に鍵盤を押さえていても(拮抗する屈筋群が活動している)低下させることが可能であるのかとなる。この中で拮抗する主動筋(屈筋群)の活動状況を、ハンブルク音楽大学教授のラルフ・ナットケンパー(愛知県立芸術大学客員教授)の公開レッスン(平成26年7月24日(木)18:00~,愛知県立芸術大学大合奏A)でも実施し、ピアノ専攻大学生においてもバイオフィードバックのレッスンが可能であることを確認した。 本研究は、機器等のハードの問題によって大きく出遅れたが、既存の機器等を利用して効果を明確に示すことが可能な目標を見出すことができた。この点では、大きく前進していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、オクターブ打鍵時の浅指伸筋の筋活動レベルを、打鍵する前に鍵盤上に指を置いた時点で低くできるのか、打鍵後に鍵盤を押さえていても低下させることが可能であるのかの命題を、レッスンによって克服することが可能であるのかについて、大学院生を中心にデータを収集・解析することで検証する。この検証結果を、第71回 日本体力医学会において発表することで、運動生理学関係の研究者からの示唆を受けることが可能となる。来年度も含めて、ピアノレッスンで頻繁に用いられている「脱力」について科学的に説明できるように、さらなる検討を推し進めることとする。 平成27年11月4日(水)には、名古屋市立菊里高校音楽科において、出張リアルタイムEMGバイオフィードバックレッスンを開催する予定である。音楽教育における高大連携の中でも、科学的な検証をベースにした愛知県立芸術大学オリジナルの特殊なケースとしての試みになると期待している。さらに、8月および冬期に、この手法を用いた本学ピアノ専攻准教授の掛谷勇三先生(分担研究者)による公開レッスンを、本学の施設を利用して実施する予定である。
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Causes of Carryover |
それなりに機能を満たす測定機器およびパソコンが、安価で購入できたことが最大の理由である。さらに、機器の導入が業者の都合で遅れたことにより、夏期に開催予定であったセミナーが実行できなかったことも理由の一つである。これにより、謝金等の予算が余ることとなった。 これらの結果、学会発表に至る十分なデータが取得できなかったことから、旅費の予算を余らす結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、国内での学会発表およびセミナーを中心とした展開となるため、当初の予算通りに執行可能である。また、翌年度に国際学会で研究発表するための費用に充てる予定である。
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