2015 Fiscal Year Research-status Report
指導者および受講者のリアルタイム筋電図を用いた新たなピアノレッスン手法の開発
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26580017
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
石垣 享 愛知県立芸術大学, 美術学部, 教授 (60347391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
掛谷 勇三 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (80381747)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 筋電図 / 音楽 / バイオフィードバック / レッスン / オクターブ / 障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ピアノ打鍵時の筋活動部位とその程度を視覚的フィードバックによりリンクさせることであり、これは平成27年度までの検証でほぼ達成されていると考えられる。平成28年度には、この手法の最も効果的な打鍵はオクターブ打鍵であると判断し、この検証を進めた。ピアノのオクターブ打鍵は、簡単に言えば親指と小指で1オクターブ離れた同音(例としてドとド)の打鍵を同時に行うことである。この打鍵様式は、演奏に関連する筋骨格系の障害(PRMDs)の発生に強く係わっているとされる(Furuya, 2006)。PRMDsは、掌の小さい者に不利とされ(Smet, 1998)、西洋人と比してアジア人、同様に男性よりも女性が不利であることが報告されている(Chesky, 2007)。したがって、本研究の成果は、日本人女性のピアニストの障害発生を未然に防ぐ為の一つの方策として期待される新たな方向性を見出すこととなった。 そこで我々は、オクターブ打鍵時の上肢筋群の筋活動の低減を、筋電図波形のリアルタイム表示によるフィードバックでどの程度可能となるのかを、ピアノ専攻大学院生を対象に検討した。実験条件は、8度(ドド)、9度(ドレ)および10度(ドミ)の三条件のオクターブ打鍵を左右で行い、フィードバックの効果はこれの無い条件の相対値として検討した。結果は、右側の前腕部は、打鍵前後通して筋活動を低下させることが可能であった。左側では前腕部のみに筋活動の低下が認められたものの打鍵後では被験筋により結果が異なった。効果が右側の前腕部のみに認められた事は、鍵盤重量の軽さの影響があると考えられた。また、音楽的考察で10度は、協和音程なので鋭く響く9度よりもむしろ柔らかくしっかりとしたタッチで打鍵する可能性が示唆された。しかし、10度の打鍵が不可能な実験参加者も存在したために、以降の検討は9度までとすることに決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、研究対象となる打鍵様式および注目すべき筋群を特定できたことで、研究成果を社会にどの様に還元していくのかについて明確となった。本研究の最終的な目標は、受講生が指導者の筋電波形と同様となるように筋活動を調節する新たなピアノレッスン手法の開発(バイオフィードバックレッスン)であるが、これが最も必要とされる場面をオクターブ打鍵に特定できた点で研究の方向性が決定づけられた。 成果は、第70回日本体力医学会大会で「リアルタイム筋電波形によるピアノバイオフィードバックレッスンの効果検証」のタイトルで発表を行った。ここでは、多くの示唆を受けることができ、これまでのデータを見直すことで結果の検討方法がほぼ明確となった。その内容は、ピーク音圧を基準に打鍵フェーズを前・中・後の3つに分けて積分筋電図を処理していたが、1)打鍵中が明確でないこと、また鍵盤からの反力を感じる事よりも2)打鍵後の発音を演奏者は大事にするので、データ処理はピーク音圧の前後フェーズで分割するのが合目的であることに気付いた。そして注目すべき点は、ピアノは打楽器と同じであるのでピーク音圧後の筋活動は無意味であることから、これを視覚的フィードバックにより体得させる内容に限定することで研究成果が明確になることが判明した。この考察にしたがってデータを検証し直した内容を、平成28年度の第21回 European College of Sports Scienceで発表することが許可された。 平成27年11月4日(水)に名古屋市立菊里高校音楽科の全生徒および教員を対象に、掛谷准教授がピアノ専攻2名および弦楽器専攻1名の生徒のバイオフィードバックレッスンを行った。さらに同校の教員および生徒の4名が本学の実験室を利用した追加実験(平成28年1月10日)に参加し、成果を平成28年度の第67回日本体育学会大会で発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は最終年度であることから、主として成果の公表を中心に活動を行う予定である。国際学会では第21回 European College of Sports Science、国内では第67回日本体育学会大会および第71回日本体力医学会大会において、これまでの成果を公表する。また、日本人間工学会・看護人間工学部会の第24回 看護人間工学部会研究発表会(平成28年11月5日)の特別講演に招聘され、本研究成果の公表と実演を行う予定である。 さらに、音楽知覚認知研究会の機関誌に、これまでの成果を論文としてまとめ上げ投稿する予定である。 可能であれば、ピアノ専門課程に所属する高校生または学部生を対象とした追加実験を行うことで、演奏レベルおよび発育発達の観点からの検討を試みたい。そうすることで、技能の発達度合いに応じたバイオフィードバックレッスンの段階付け、またはこの手法の限界を見出すことができるものと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、バイオフィードバックレッスンの実演を名古屋市立菊里高校で実施したことから会場費および調律費の費用が全くかからなかった事に加えて、成果の公表の場である学会発表を第70回日本体力医学会大会のみでしか行えなかった事が最大の理由である。また、最終年度に国際学会で成果を公表するための旅費を確保することもこの目的の一つであった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の使用計画は、ヨーロッパでの国際学会での研究発表および国内の2学会で研究発表を行うための旅費として大部分を費やすこととなる。また、これまでの研究データのアーカイブを、専用の磁気記録装置に作成することで研究内容の保存を行う。さらに、論文作成費として使用する予定である。
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