2014 Fiscal Year Research-status Report
18・19世紀西洋における音楽大ホールと楽器との相関に関する調査・研究
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26580040
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
熊倉 功二 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (30386362)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 音楽大ホール / 楽器 / 技術革新 / 18・19世紀 / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、18・19世紀のヨーロッパの時代潮流を反映したキーワード「技術革新」の視点から、仮説「音楽大ホールの建造が新たな高音量で高音質な楽器を産み出した」を分野横断的な調査・研究により検証することにある。 1. 18・19世紀のヨーロッパで建造された音楽大ホール(オペラハウス並びにコンサートホール)について建造年、建造都市、ホールの規模(敷地面積並びに座席数)の調査を行うと共に技術革新がなされた楽器について制作年、制作された国、技術革新の内容の調査を行った。そして1700年から1890年までを10年単位でそれまで建造された音楽大ホールの数と技術革新がなされた楽器の数との相関係数を求めた。 2. 楽器について、18・19世紀に制作された楽器と現代の楽器との音量を実際に測定し比較した。なお18・19世紀に制作された楽器は武蔵野音楽大学楽器博物館が所蔵しているものを使用し、現代の楽器も武蔵野音楽大学が所有しているものを用いた。 3. 18・19世紀のヨーロッパの時代潮流を反映したキーワード「技術革新」について、建築の分野、楽器の分野、科学史等の異なる分野の研究者が協力し、分野横断的な調査を行った。現在も調査中ではあるが、これまでの調査並びに上記仮説の確からしさを踏まえるなら、キーワード「技術革新」は18・19世紀のヨーロッパの時代潮流を反映したキーワードと見ることができる。 4. 本研究は、時代の潮流を反映するキーワード「技術革新」の視点からの分野横断的研究であり、説得力のある研究成果が得られたなら今後の分野横断的研究のモデルケースになるという意味で重要である。また「技術革新」はまさに現代のキーワードでもあり、18・19世紀に遡り「技術革新」の歴史を調査・研究することは、現代科学技術文明の理解を深める助けになるという意味で意義深いものだと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である仮説「音楽大ホールの建造が新たな高音量で高音質な楽器を産み出した」を検証するため、横座標に1700年から10年刻みで1890年まで取り、縦座標にその年までに建造された音楽大ホールの数と技術革新がなされた楽器の数とをプロットする。そこから、建造された音楽大ホールの数が増えた後に技術革新された楽器の数が増えることが分かる。この時間的前後が仮説を検証する上での第一の条件である。更に1700年から10年刻みで1890年までの建造された音楽大ホールの数と技術革新された楽器の数との相関係数を求めると、強い相関が示された(相関係数は0から1の範囲にあり、強い相関は0.7以上を指す)。この強い相関が仮説を検証する上での第二の条件である。現在まだ調査・研究の余地があり最終的な結論には至っていないが、上記二つの条件を満たしていることが「おおむね順調に進展している」とする理由の一つである。 従来、音楽ホールの研究は建築分野の研究者、楽器の研究は楽器分野の研究者というように、専門分野ごと別々に調査・研究がなされてきた。本研究では、異なる分野の研究者がキーワード「技術革新」という共通の視点から調査・研究を行い、音楽ホールと楽器との相関関係を明らかにできたことが「おおむね順調に進展している」とするもう一つの理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度が「おおむね順調に進展している」ことから、今後の研究の推進方策についてはこれまでの推進方策を継続し、不足しているところを補足・補完することにする。具体的には以下のように進める。 1. 18・19世紀のヨーロッパで建造された音楽大ホール(オペラハウス並びにコンサートホール)に関し、更に補足すべき音楽大ホールがあるかいなかを調べたうえで、それらの建造年、建造都市、ホールの規模(敷地面積並びに座席数)、更に加えて音響設備や残響時間の調査を行う。国内の調査に加えて9月に調査員(一名)をヨーロッパに派遣し現地調査を行う。 2. 18・19世紀に技術革新された楽器に関し、更に補足すべき楽器を調べたうえで、それらの楽器に共通した技術革新の特徴が見られるかどうかについての調査を行う。国内の調査に加え、9月に調査員(一名)をヨーロッパに派遣し現地調査を行う。 3. 上記1.と2.の調査に基づき、仮説「音楽大ホールの建造が新たな高音量で高音質な楽器を産み出した」を統計的な処理を行うこと(分布図および相関関数の利用)により、検証することにする。 4. 更にこの仮説を補強するため、著名な音楽大ホールでの楽器編成の推移等を調査・研究する。音楽大ホールの技術革新をも視野に入れかつ上記1. 2. 3.から得られた知見から、時代の潮流を反映するキーワード「技術革新」についての分野横断的調査・研究を継続して行う。 5.今後上記の研究成果を順次論文等で公にすることを予定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初27年3月に予定していたヨーロッパでの現地調査を27年9月に繰り延べたことによる。よって26年度の旅費はそのまま27年度に繰り延べされる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ヨーロッパでの現地調査を27年9月に実施することにしている。
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