2014 Fiscal Year Research-status Report
中世近世薫物文化の文献学的研究―「新作薫物」の発祥と実相、史的変遷を中心に
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26580046
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Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
田中 圭子 広島女学院大学, 総合研究所, 客員研究員 (20435051)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本古典文学 / 日本古代文化 / 香道 / 薫物 / 新作薫物 / 薫物書 / 薫物の流派 / 菊亭文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度には、主として専修大学図書館菊亭文庫及び東京大学史料編纂所所蔵徳大寺家本並びに京都大学附属図書館菊亭文庫に収蔵される貴重書の、閲覧及び書写又は複写といった方法による資料収集調査を実施するとともに、収集資料の全文ないし要所の釈文を作成した。これらの釈文の内、薫物の処方や調合法については、構築中のデータベースに入力し、テキストの精査と内容分析を行った。これにより、秘伝書間のテキストの比較検討が容易になるとともに、処方や調合法の流通経路について従来以上に多様な時代性と来歴を伴う文献から跡付けることが可能になった。また、薫物書の伝承に記載される江戸時代以前の人物の閲歴に関する資料調査と遺跡の踏査も行い、新たな業績の発掘と検証に努めた。
以上の資料と情報に基づき、所属学会におけるポスター展示や所属研究会における口頭発表、学術研究論文の執筆を行う等、研究成果の公開による社会との対話の実現に努力した。これらの内、所属学会におけるポスター展示に際しては、和文と欧文による配布資料を作成し、海外からの来場者や日本語を母語としない参加者にも積極的に配布して、薫物という日本の伝統文化についての情報提供と認知度の向上に努めた。
最も顕著な成果と自負するのは、①江戸時代前期の上層社会に薫物の複数の〈流派〉(「勅方(流)」、「三条流」、「中院流」等と呼ばれる。)と宗匠が存在した可能性を示唆する文献について報告できたこと、②産学連携活動として、室町時代から江戸時代にかけて流行したと見られる〈新作薫物〉の復元と公開を実施できたことである。①については次年度以降にも引き続き検証作業を行う予定であり、②については、産業界の有識者の協力を仰ぐことに加えて、所属機関の附属中学高等学校教諭、並びに同校の化学部に所属する中高生にも協力を依頼し、新たな種類の復元と公開に向けた取り組みを実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の主要な活動として予定していた範囲の資料調査及び収集資料のデータベース化及び主所属学会等における成果発表は、年度末までに全て実施することができた。また、資料調査を実施する中で、当初計画の立案時には判明していなかった関連資料を発見し、それらの閲覧調査も併せて実施することができた。以上のことから、計画の進捗状況は極めて順調であり、期待した以上の結果を得ることができたと自負している。
ただし、本年2月4日に発行された『香道文献目録―所蔵館別―』(香書に親しむ会、清水書院)において、既存の目録類等に報告の無い新出資料の所蔵情報が多数掲載されたことから、本計画の延長線上に新たな計画を立案する必要が生じている。当初計画を完遂できた暁には、新たな補助事業計画をもって改めて科研費事業に応募したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の2年間は、それぞれ次の活動を推進することにより、本研究課題の当初目標の達成に努めたいと考えている。
平成27年度には、江戸時代前期の上層社会における薫物の〈流派〉に関する具体的な記述の認められる①専修大学図書館菊亭文庫所蔵「万方」(第2函第118号)及び②東山御文庫所蔵「後水尾天皇薫物調合御覚書」(113-4-2-20)の記述内容の分析及び書誌の解明を実施し、〈流派〉の実在と実相を文献学的に跡付けられるよう引き続き努力する。また、社会への成果の還元を目的として、産業界の有識者と中高生に協力を依頼し、平安時代以来の伝統的で著名な歌語を銘に冠した〈新作薫物〉の復元に取り組み、それらの完成品を所属学会等において展示する計画である。以上の計画を遂行することにより、江戸時代の上層社会における有識者らが、古代人が和歌に詠み上げた〈心〉をどのように解釈し、いかに具現化しようとしたのかを究明するとともに、日本古典文学・文化研究を専門とする有識者のみならず、多様な職種と専門領域、学齢にある人々を対象に、本研究の成果をアピールできるよう努める。
計画の最終年度にあたる平成28年度には、過去2年間の成果をもとに学術論文を執筆し、国内所属学会における口頭発表及び論文発表を実施できるよう努力するとともに、海外所属学会における成果の口頭発表も計画している。ただし、近年の海外における情勢の悪化に鑑みて、海外出張の予定を廃止し、口頭発表を論文発表に切り替える等、計画内容と予算配分を全体的に見直すことも念頭に、慎重かつ柔軟に取り組みたい考えである。
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Research Products
(8 results)