2016 Fiscal Year Annual Research Report
Reconstruction of Images of Death Represented by Modern Japanese Literature and Film in Comparison with the West and Asia
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26580047
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
城殿 智行 大妻女子大学, 比較文化学部, 教授 (00341925)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 死生学 / 表象 / 映画 / 日本近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたる平成28年度は、研究計画に基づき、死生学に関連する表象理論の構築に努めるとともに、日本および各国における映像・言語資料の収集と分析を行い、研究の総括を試みた。研究成果の一端は、日本における死の文学的なイメージを主題化した立尾真士著『「死」の文学、「死者」の書法―椎名麟三・大岡昇平の「戦後」』への長文書評として、また本研究による既出論文「見えない傍観者―溝口健二と「あまりに人間的な」映画」を、政治的かつ歴史的な観点から再考する長文補注として、公表した。 前者では、ハイデガー、デリダ、ジジェク、ヘーゲル等に合目的的な哲学根拠を求めながら、日本文学における死のイメージを論じた著作に対して、論の前提・方法・論理のいずれにも疑義を呈し、近現代哲学や思想史はむしろ、理念的に合理化・目的化しえない、思考の盲点をめぐる営みとして歴史的に形成されてきたはずではないのかと指摘した。 後者の「天覧と遙拝―「見えない傍観者」補注」では、作中人物や観客の視線を複雑に折り込んで撮られる溝口の諸作が、作品に内包される緊張度の極点において、しばしば視線の放棄を描き出すのだと指摘した本論をふまえ、画面に表象されたそのような抑圧は、明治期以降の日本における国民の視線および主体性の簒奪と臣民化をもくろんだ視覚文化施策に酷似しており、両者には相同性が指摘しうるのではないかと論じた。 その意味では、他文化圏との差異をふまえつつ、日本近代における言語的・映像的な死の表象の再構築を目的とした本研究は、当初、哲学的・認識論的な前提を重視して出発しながらも、結果としては、より政治的・歴史的な観点に基づく表象分析の必要性に帰着したわけであるが、研究の進捗に応じて新たに見出された課題とともに、本研究の成果には、他文化圏における表象分析と比較しても、独自の意義が十分に含まれるのだと信じる。
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