2015 Fiscal Year Research-status Report
中国古典小説とは何か―「作者」・「語り手」・「主人公」をキーワードに
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26580064
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
上原 徳子 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (50452917)
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Project Period (FY) |
2015-03-01 – 2018-03-31
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Keywords | 明代小説 / 文言と白話 / 明代自伝文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績は、以下の通りまとめられる。 1.明代文学学会での発表と明人自伝文を読む会への参加 中国北京で行われた明代文学学会に参加し、論文の提出並びに口頭発表を行った。論文は、文言小説と白話小説の改編問題を扱った。最近の日本での研究動向の分析の後、具体的な作品の検討を行い、特に両文体の間で内容がほぼ同様のものがあることを確認し、文体が違っても描く内容が同じ場合があることは、文体間の価値観が接近していたことを意味すると考えられると指摘した。発表後、中国の研究者からの意見をもらうことができ、自らの知見を深め、今後の研究へのヒントを得ることができた。さらに、京都に於いて定期的に行われていた明代の自伝文を読む研究会に参加した。萬暦松江の陸樹聲の自伝文「九山散樵傳」を担当し、朝廷の高官となったものの故郷で隠遁の時期が長かった筆者の独特な世界観を読み取った。その構造について、「語り手」と「「作者」の関係性について、さらにそれが持つ「小説的」要素を従来から指摘されている虚構性と構造的問題から検討した。 2.資料収集 最近の西洋文学批評を利用した中国小説についての論文を収集した。ここ数年においては、これらに関する論考は多いとはいえない。また、理論そのものへの関心はあっても小説分析への応用を試みるものはみられなかった。この結果が意味するのは、現在西洋文学理論の中国古典小説分析への応用そのものがあまり有効とは思われていないということであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究の進捗状況は実績と照らし合わせ以下ようにまとめられる。 1.文言と白話、二つの文体の内包する価値観の相違についての検討から、双方に共通する価値観が明代には存在していたという仮定を導いた。 2.明人の自伝文における、作者意識の検討ができた。萬暦松江の陸樹聲の自傳文「九山散樵傳」の精読と分析から、彼が自伝という形で伝達したかったことを検討できた。 3.ここ数年で発表された中国小説に対する西洋文学理論の応用について述べた論文を収集することができ、整理・分析をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、昨年度の実績2、3を踏まえ、それらの成果を論文として発表する。さらに一歩進め、明代の「自伝」ついて、先行する唐・宋の自伝文について自伝文中の語り手の分析を踏まえた分析を行う。分析対象は、『明代自伝文鈔』(杜聯喆輯、藝文印書館1977)に収録された自伝とする。自伝については一般に「作者」・「語り手」・「主人公」の三者が一致している、あるいは了解が成立しているテキストとされているが、中国の自伝では、語り手は「わたし」を意味する言葉を用いない。そこで、各作品中の語り手に着目した分析を行う。成果については、学会において口頭で発表した後、論文として投稿する。
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