2014 Fiscal Year Research-status Report
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26580067
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Research Institution | Josai International University |
Principal Investigator |
芳賀 浩一 城西国際大学, 人文学部, 准教授 (70647635)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境文学 / 震災文学 / エコ・クリティシズム / 地震と文学 / エコロジーと文化 / new materialism |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、自然や社会環境と文学作品が常に不可分の関係にあることに着目した環境文学批評(エコ・クリティシズム)の実践として、2011年3月11日に発生した東日本大震災と文学作品、特に小説作品との関わりを分析するものである。分析の手掛りとして、まず本研究者は2011年3月11日以降に書かれ、震災と関わりのある国内外の文学作品を時系列的に収集・整理し、その中で特に重要なものについては、詳細な内容分析を行った。 調査の結果、震災に関連する文学作品(小説)は一般に知られている以上に多く書かれ、内容も多岐に亘っていることが明らかになった。その一方で、小説作品は、詩・短歌・俳句やノンフィクションなどを含めた他の表現形式・メディアに比べ、震災に反応するスピードが遅く、作品が出版されるまでに少なくとも2ヶ月以上の時間を要しており、小説という表現形式の特徴も明らかになった。いくつかの例外を除き、震災をテーマとして構想された小説が発表されるのは2011年9月ごろからであり、2012年~2013年の前半には大江健三郎、佐伯一麦、池澤夏樹、村田喜代子等の連載小説に加え、黒川創、辺見庸、玄有宗久、橋本治なども震災やその後の社会を見据えた短編小説を多く発表し、文芸誌が震災小説で活況を呈した。 また、震災をテーマとする小説作品は、大手メディアに書く職業的作家以外の人々によっても多く書かれ、出版されており、東日本大震災が日本国民にとって共通の関心事であるだけでなく、出版社にとっても出版意欲を掻き立てられるテーマであったことが窺える。震災文学、あるいは環境文学というカテゴリーは従来の純文学・通俗文学、あるいは商業誌・非商業誌といった分類を超えた形で存在しており、環境から分析するという視点そのものが、従来の文学研究に対する新たな方法の提議として意味があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2014年度は東日本大震災に関連する小説作品および海外において進展著しい環境批評理論(エコ・クリティシズム)の文献収集と整理を主な活動としていた。計画に従い、国立国会図書館や岩手、宮城、福島県立図書館等を訪問、またインターネットや雑誌、新聞による情報収集を通じて東日本大震災に触発された小説を調査し整理と分析を進めた。環境批評理論の文献に関しては主にインターネットでの調査による文献取得となっている。長編と短編を含め小説を約90作品、海外の環境批評理論文献は約40冊を収集した。 研究成果の発信については主に2015年度に行う計画であったが、2014年11月に沖縄で行われた国際学会、2014 International Symposium on Literature and Environment in East Asiaでは、近年環境哲学の分野で注目されているTimothy Mortonの理論を中心に環境批評の方法についての発表を行った。また、震災に影響された小説として佐伯一麦の『還れぬ家』の分析を行った論文も査読を通過し、学術雑誌に掲載される予定である。 以上のように、研究は概ね計画通りに進んでいるが、最終的な目的である日本における環境批評の確立にはまだ越えなければならない壁が多いと感じている。論文の執筆を通してグローバルな環境思想と日本の文学批評を論理的につなげていく作業を継続していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画に沿い、2015年度は作品・文献の収集と整理を続ける一方で、学術誌、学会、そして一般への研究成果の発信に力を入れる予定である。一般への成果の還元は公開講座(一般市民対象)や模擬授業(高校生等)、そしてインターネットによる情報公開によって行う。高校生対象の模擬授業は既に4月に1度実施しており、市民対象の公開講座は11月に行われる予定である。インターネットのサイトは現在試験的に立ち上げたところであり、今後内容の充実を図っていきたい。 また、岩手・宮城・福島各県の図書館、資料館の訪問を再度実施し、資料を調査・発掘することも予定している。資料を分析した結果は、順次論文として学術誌に投稿していくが、同時に海外の批評哲学・理論を整理・分析した結果およびその発展形としての日本の環境批評理論を学会発表や論文として発信していくつもりである。そのためには海外の研究者との学術交流が欠かせないため、将来的には海外での研究調査も視野に入れて進めていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、学会参加の回数が予定より少なくなったため旅費の支出が減ったことや、謝金の支出が予定を下回ったこと等が挙げられる。一方で書籍購入には予定を上回る額が必要となっており、多少の次年度繰越しは出たものの、全体としてバランスはとれていると考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、本年以上に学会参加や講演の機会を増やし東北地方での調査も行うため、旅費の支出は増えると思われる。また、研究目的達成のために必要な書籍購入は継続し、ウェブ上での多言語による情報公開も行うため、予算はほぼ全て使用する予定である。
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