2016 Fiscal Year Research-status Report
複合語の実時間的構造処理:語彙処理研究と統語処理研究の協働をとおして
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26580071
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 たかね 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10168354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50322095)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 複合語 / 予測 / ピッチアクセント / 声調変化 / stress shift |
Outline of Annual Research Achievements |
複合語処理における演算的側面に焦点をあて、複合語内部の構造的処理が行われる実時間的側面を重視した複合語処理の新たなアプローチを展開することを目的に、日本語・中国(北京)語・台湾語・英語の言語における諸現象を利用した実験を計画・遂行した。日本語の複合語前部要素における、複合語アクセント規則によるアクセント変化という情報を予測的に用いることは、昨年度までの成果として得られていたが、これをもとに、中国語(北京語)におけるTone3 Sandhi現象による複合語構造予測についても実験的検討を行い、前部要素の声調変化情報が複合語構造を予測されるかという点および、その場合予測される後部要素が同じく(声調変化のトリガーとなる)Tone 3の情報を持つことも予測しているか(後者にはレキシコンのアクセスが必要となる)と言う点について検討した。結果、日本語よりも広い範囲の統語的条件で起こるTone3 Sandhiの出力が予測処理において機能しうること、ただしレキシコンのアクセスまでは必ずしも促進するとはいえない結果を示した。台湾語においては、台湾語に特徴的な連鎖的声調変化という現象が本プロジェクトに非常に重要な知見をもたらすと期待されるため、台湾国立大学との間で共同研究体制の検討および学生セミナー企画という形での交流を開始した。さらに、新たな着想として、英語においても、特定の状況でのみ生じるstress shiftとうい現象が複合語構造予測に貢献しているかという点についても検討および予備実験を開始した。これは、複合語構造における後続要素の担う語彙stressによって、前部要素の語彙stressの位置が移動するという現象である。母語話者による発話実験を行い現在結果を解析中であるが、予備実験の結果を踏まえて行うべき実際のデータ収集については翌年度に持ち越されることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本語のアクセント変化による複合語予測について、これまで得られた日本語母語話者の成果の発展系として、日本語の第二言語話者についての実験を行い、一定の予測反応を確認した。この成果を国際学会の招待講演にて発表した。中国語(北京語)におけるTone3 Sandhi生起情報の予測的処理については、本専攻博課程学生を経て現・技術補佐員である陳が3つの眼球運動測定実験を行い、その成果を複数の国際学会にて発表した。さらに、台湾語の連鎖的声調変化現象を用いた実験計画をすすめるべく、本学技術補佐員陳および本専攻大学院生黄とともに台湾国立大学との間で共同研究体制の検討および学生セミナー企画という形での交流を開始した。英語のstress shift実験は、本専攻修士課程学生である古川が実験材料を作成したところである。十分な数の英語母語話者のデータを予備的に収集したうえで本実験に入るのに一定の期間を要するため、本年度前半にかけての実験遂行を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、国際共同研究として台湾国立大学との間で計画途上である、連鎖的声調変化の知覚実験を行う。また、英語のstress shift実験については、本年度、ハワイ大学マノア校にて実験を実施する準備が整いつつある。年度前半に、産出データをもとに材料の選定をすすめ、夏休みから年度後半にかけて音声知覚実験を完了させる計画である。さらに、これまでである程度の実験的検討が完了した成果について、国際学会等で研究発表をおこなってきたが、これらを投稿論文の形で発表するため執筆をすすめたい。
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Causes of Carryover |
研究代表者が総長特任補佐の任にあり予想以上の多くの時間を学内業務にとられたため一部日程調整や計画の遂行が潤滑に進まなかった部分が発生した。国立台湾大学との共同研究体制を構築したうえで実験を遂行・完了させることがかなわなかったため、1年間の期間延長が必要と判断された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては、国立台湾大学への出張旅費および実験者金を執行する。また英語母語話者の実験については、一定の数の話者による予備調査(音声産出実験)、その音声分析を経たうえで再び新規の英語母語話者グループを対象とした知覚実験を行うために時間を要することとなった。予備調査(音声産出実験)についてはデータ収集は完了しているため、この結果をもとに知覚実験の準備を行い、8~10月にかけてハワイ大学で知覚実験を行う。このための国外出張旅費と実験謝金を繰越使用することとした。
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Research Products
(19 results)