2014 Fiscal Year Research-status Report
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26580084
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
米谷 隆史 熊本県立大学, 文学部, 教授 (60273554)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 方言 / 近世出版 / 往来物 / 教訓書 / 農書 / 仮名遣 / 言語意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
調査データの保管・処理用の機器を購入の上、宮城県図書館・福島県立図書館・福島県立博物館・会津図書館・国文学研究資料館等における文献調査、福島県三島町五十嵐家所蔵文書(部分)の電子画像による概要調査、及び関連書籍の購入を行った。その結果、現在までに下記のような成果があった。 ①宮城県図書館蔵の仙台版やその他東北地方の版本の中に、これまで知られていた以外に、次のような方言反映典籍を見出すことができた。イ『大福帳』(正徳元年刊カ)「竹(タゲ)」 ロ『救荒略』(天保4年刊カ)「毒にあだる事なし」「塩を加(くは)ひて」等 ハ『五穀人豊記』(嘉永4年刊)「蒙昧(もふまへ)」「或(あるへ)は」等である。 ②本研究構想のきっかけとなった、福島県三島町の五十嵐富安による刊行本9種の福島県内における伝存状況の概要が判明した。五十嵐家に6種、三島町内に2種、福島県立博物館に1種である。また、26年度中の五十嵐家現地調査は叶わなかったが、富安の書物刊行に関する文書の内容を電子画像で確認し、最初の刊行本である『農喩』に会津暦の版元である菊地庄左衛門が助力していたこと等が明かとなった。なお、富安は嘉永4年に『子孫繁昌手引草』を刊行したが、同書は前年にも会津若松で刊行されており(富安版とは別版)、こちらにも方言の反映と見られる例(「あくのむくへ有」「幸(さゆわ)ひ」等)が見出された。 ③地域・時代的には本研究の対象外であるが、新潟地方で明治中後期頃に多数刊行された「越後くどき」の台本はかなり規則的にエを「い」と表記する(例えば明治32年刊『いちご(越後)でんきち』は書名でも)。近世の「越後くどき」写本ではここまでの規則性は見られないようであることから、本研究で対象とする典籍にみえる方言反映事例との共通点と相違点について注視していく必要を感じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宮城県・福島県の公的収蔵機関における文献調査はほぼ予定通りに実施し、当初想定した水準の成果を挙げることができた。しかし、27年1月から2月に予定していた山形地方の公的収蔵機関における文献調査と福島県三島町五十嵐家での現地調査とは、豪雪等による交通手段の不確定により断念せざるを得なかった。そのため、双方とも27年度の実施となる。但し、五十嵐家の文書については、富安の書物刊行に関わる部分を電子画像で調査して既に概要を把握し、会津暦版元と富安刊行本との関係が明らかになるなど予想以上の成果を得ている。また、現地調査も27年6月中旬に実施することで五十嵐家と調整が済んでいる。山形地方の調査も27年度7月中の実施を予定しており、達成度に関わる調査作業の若干の遅延は、本年度前半中に解消する見込である。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度の推進事項は次の通りである。 ① 福島県文書館・三島町五十嵐家他(福島県)、宮城教育大学(宮城県)、山形県立博物館他米沢・鶴岡・酒田他の公的収蔵機関(山形県)、秋田県立図書館他(秋田)における文献調査を実施する。前年度からの若干の遅延もあるため、全ての地域において網羅的な調査は難しいことから、秋田県立図書館他の秋田県における調査は、既に顕著な方言反映例が見られることがわかっている『農業童子訓』と『奥羽勧農新編』の編者である「勧農堂」岡見知康の関連事項に絞って実施することとする。併せて、方言反映典籍と同内容の三都(京・大坂・江戸)刊行本が存する場合は、それらとの比較作業も国文学研究資料館等において継続して行う。 ② 昨年度までと本年度①において見出された方言反映例の分類整理を進める。典籍の分類としては農書・往来物(教訓・字尽・書簡例文)が中心となる。言語上のパターンとしては、表記に反映した音声・音韻上の特徴と方言語彙の使用とが中心となる。但し、特に農書における語学的な方言語彙の研究は必ずしも十分な蓄積がないことから、第一段階としては、『奥羽勧農新編』のように「二次農書」とされる、先行農書の内容を適宜に取捨選択して編纂記述されたものを取り上げて、当該の先行農書との比較から方言的特徴を見出していく作業を進めていくこととする。 ③ 27年度中に学会等でこれまでの成果を発表し、論文を作成する。また、五十嵐富安による書物刊行の意義に関して三島町関係者への中間報告を行い、その顕彰の方策について検討を進めていくこととする。 ④ 方言反映典籍は、多くが薄冊で一見どこにでもあるように見えるものがほとんどである。そのため公的機関には収蔵されていないものが多く見受けられる。佚亡が進まぬよう、本研究に関連する古典籍は予算内で随時に購入していく。
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Causes of Carryover |
未執行の主要部分は、各地における文献資料調査旅費である。当初予定していた福島県三島町五十嵐家所蔵の文書典籍調査と山形県内の公的収蔵機関における典籍調査とは、調査予定時期(27年度1月から2月)に豪雪等によって交通手段の確保が予定通りに見込まれがたい状況が続いたため、実施できず延期となった。この2回分の調査旅費が「次年度使用額」として繰り越されてしまったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未実施に終わった福島県三島町五十嵐家所蔵の文書典籍調査と山形県内の公的収蔵機関における典籍調査とは、いずれも27年6月と7月に実施する予定で調整が済んでおり、年度の前半早い時期に当初予定通りの執行状況に追いつく見込である。また、前年度の経緯を踏まえ、山間地域を経由する移動を伴った文献調査は秋季までに終えておくことを原則として本年度の調査計画を構想している。 その他、当初、27年度計画にあった秋田地域の新規調査は調査項目を絞った実施とし、26年度に予想以上の進捗があった場合に27年度より着手予定としていた岩手県と青森県の調査は28年度からの着手とする。
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