2014 Fiscal Year Research-status Report
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26580085
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Research Institution | Sanyo Gakuen University |
Principal Investigator |
山根 智恵 山陽学園大学, 総合人間学部, 教授 (60269983)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 言語接触 / 岡山方言 / 関西方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハンセン病療養所入所者に関しては、隔離された状況が長く続いたが、そのような状況が続いた戦前においても、園誌によれば、多くの訪問者が訪れていたことが見て取れる。言語接触、言語変容の面からもどのような地方から、どのような訪問者が訪れているかを調査することは重要だと考え、1年目の本年度は、インタビュー調査を実施するとともに、文献調査も行った(文献調査については、現入所者と直接関係はないものの、戦前から今日までの傾向を探るという観点から、今年度は『愛生』通巻1号(1931)~ 122号(1944)を分析)。 その結果と傾向は次の5点にまとめられる(『山陽論叢』第21巻拙稿参照)。(1)戦前においては、岡山県からの訪問者が全体の3割を占め、次に近畿地方12.6%、以下海外(外国人を含む)7.1%、関東地方6.9%であった。(2)訪問者の所属機関については、宗教関係者が25.7%と最も多く、次に官公庁からの訪問者21.6%、学校関係者10.0%と続いた。(3)戦前の愛生園への訪問者や、入所者へのインタビューから、多くの訪問者があったとしても、入所者と間近で語り合うことはほとんどなかったため、戦前においては、訪問者との言語接触による影響は少ないと思われる。ただし、訪問者の中には短歌・俳句・詩の指導や、野球の対抗戦で訪れた者もいることから、若干ではあるが岡山方言、関西方言などの方言を聞く機会があったのではないかと思われる。(4)入所者へのインタビュー調査では、岡山方言の認知度が、同年代の岡山在住者より低い傾向がみられる。(5)複数の入所者が集まった際の自然談話の傾聴では、様々な地方から入所しているため、方言と共通語が混在しているが、関西方言の勢力が強い傾向がみられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ハンセン病療養所入所者へのアンケート及びインタビューということで、学内、長島愛生園、邑久光明園それぞれの倫理審査委員会に書類を提出する必要があった。しかし、研究分野が異なる人々が委員となっていたため(言語学、方言学、日本語学以外の分野の人々)、承認を得るのに、特に邑久光明園では非常に時間がかかった。また、入所者との人間関係作りを行ってからインタビューを実施する必要があったこと、入所者が高齢のため一回のインタビュー時間に限りがあること、アンケート調査を行うことが難しく、すべて聞き取り調査に切り替えたことなどもあって、データ収集が遅れている。 ただし、1年経ち、すべての倫理審査委員会から承認が下り、園の調査協力者も増えた。当初の計画で挙げた人数の確保は難しいかもしれないが、少しずつデータも収集できており、2年目は研究の進展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、特に入所者との関係作りが大切である。本年度、調査を実施していく間に、入所者の状況や思いが千差万別だということがわかったので、半構造化インタビューではなく、構造化を伴わないインタビューに切り替えた。つまり、できるだけ自然な談話の中で、どのような言語(方言、共通語、韓国語)が表出していくかという、当初の計画以上に言語に焦点を当てたアプローチをとることにしたのである。 また、アンケート調査も、筆記が難しい入所者もいることから、すべて聞き取り調査とした。そのため、一人あたりのインタビュー時間が長くなったので、そのデータからより多くの言語的特徴が得られることを期待したい。 さらに、研究会(岡山国語談話会)でのアドバイスを受け、研究代表者と入所者との1対1のインタビュー談話、研究代表者・研究協力者と入所者との談話だけでなく、入所者同士の談話も録音することにした。長島弁(愛生園弁、光明園弁)とは何か、という課題にまで踏み込んで分析していけたらと考えている。
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Causes of Carryover |
インタビュー調査のテープ起こしをまだ業者に発注していないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)2年目は、1年目と2年目で行ったインタビュー調査のテープ起こしを業者に依頼するので、1年目の残額と2年目の当初予算を合わせ、その多くをテープ起こし代に使用する予定である。 (2)愛生園、光明園に出向くのに、公共交通機関であるバスの便がほとんどなく、タクシーを使わざるを得ない状況である。特に2年目はバスの便の時間が変更になったため、交通費の使用が1年目より増える可能性がある。その交通費に充てることを考えている。
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