2015 Fiscal Year Research-status Report
大阪における個別町・町内会機能の変容に関する研究:新たな近代都市論の構築をめざす
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26580130
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Research Institution | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
Principal Investigator |
飯田 直樹 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, その他部局等, 研究員 (10332404)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大阪 / 町会 / 水帳 |
Outline of Annual Research Achievements |
江戸時代、大坂三郷の各町が作成した水帳は、町内の家屋敷一筆ごとにその所有者を記載する、いわば土地台帳であった。家屋敷の所有者名義が、売買や相続などで変わると、旧所有者名の上に新所有者名の記された紙が貼られ、名義が書き換えられた。これを帳切(ちょうぎり)という。この町によっておこなわれた帳切は明治期まで続いたが、それが明治12・13年までに終了したということを、大阪市立中央図書館や大阪大学などが所蔵する水帳の検討から明らかにした。 明治12年・13年というと、地方自治制度の歴史では三新法期ということになる。特に、区役所開設直前の明治12年2月に帳切が終了する水帳が多いということに注目し、帳切という、土地所有者名義を確認する行為が区役所の機能の一つとして引き継がれると推測した。 また、三新法期には町ごとに町会という議会が開催されることになる。大阪府は、各町に対して町会編成を指示するが、町によっては、町会費の負担を避けるために、他町と連合して町会を編成することが多くみられた。すなわち、この時期の個別町の町会は議会としての内実を伴っておらず、実質は町の聯合組織である聯合町の町会が担っていたということになる。 総じて、以上の経過を、明治初年からの大阪府による町組創出の試みと関連づけると、次のようにまとめることができよう。大阪府は明治初年以来、個別町域を超えた広域的な行政枠組、すなわち町組の編成を模索していたが、町の抵抗にあい、いったん挫折した。しかし三新法期において、この試みは町会という議会的要素の導入を各町に強制することによって達成された。町には独自に町会を設ける財政的な余裕がなかったため、他町と連合しての町会、実態としては聯合町会が編成されたことにより、広域的な都市行政の枠組としての町組の基盤がここに成立したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上海大学において研究成果の一部を報告するとともに、大阪市内に残存する水帳の大半を検討した。その結果、町による土地所有者名義の切り替え作業である「帳切」が、明治12・13年、すなわち三新法期に終了するという、江戸時代大坂の基礎資料たる水帳についての基本的な事実を初めて明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで明らかにした事実を複数の論文として公表するとともに、博物館展示においてもその成果を公開していく。具体的な作業としては、町会の議会としての内実、町会での討議の内容などを検討するとともに、未検討の水帳の帳切終了時期を確認するという作業を進めていく。また、他都市における個別町の歴史に関する先行研究についても検討し、本研究の普遍化をはかる。
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