2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26580136
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
田崎 博之 愛媛大学, 埋蔵文化財調査室, 教授 (30155064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
金原 正明 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (10335466)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農耕空間 / 水田跡(水田遺構 / 畠跡(畠遺構) / 耕土構造解析 / 土壌微細形態解析 / 栽培植物 / 微細植物遺存体片分析 / プラント・オパール分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 試料採取:平成26年度内に,奈良県御所市秋津遺跡,青森県弘前市砂沢遺跡,大阪府高槻市安満遺跡で,弥生前期の水田遺構の発掘調査が集中したことから,当初計画を変更し,水田耕作土層の土壁試料(幅80~90㎝,高さ20~40㎝,奥行き15㎝)の採取を先行させた。 2 肉眼による耕土構造解析:上記の秋津遺跡,砂沢遺跡,安満遺跡は堆積環境が異なり,相互に水田耕土構造を比較できる試料を確保できた。安満遺跡の試料採取が年度末にずれ込んだため,秋津遺跡と砂沢遺跡の検討を先行させた。一方,畠跡の可能性が考えられる文京遺跡44次調査土層試料については,7月5・6日の日本文化財科学会で,土壌微細形態解析の観察成果を報告した。また,平成26年度に愛媛大学埋蔵文化財調査室が実施した文京遺跡60次調査でも,縄文晩期の古土壌層が確認され,文京遺跡44次調査と同じく下底面で幅10~20㎝の凹部が多数出土し,人為的攪拌の可能性が考えられた。そこで,肉眼による耕土構造解析の試料を採取した。 3 微細植物遺体片分析:プラント・オパール分析の試料を含めて,秋津遺跡・砂沢遺跡の水田耕土と文京遺跡44次調査の推定畠土壌の試料を採取して分析を行った。秋津遺跡と文京遺跡の試料については,分析成果をとりまとめ,本年度の日本考古学協会と日本文化財科学会で報告する準備を進めた。 4 研究会の開催:9月13日に奈良県立橿原考古学研究所,11月28日~30日に愛媛大学埋蔵文化財調査室で,研究代表者・分担者,研究協力者ほかが参画する研究会を開催できた。秋津遺跡と砂沢遺跡の試料の調査・分析成果の報告と相互検討を行い,肉眼による耕土構造解析と土壌微細形態解析の成果の比較検討,微細植物遺体片分析やプラント・オパール分析の試料採取と耕土構造解析との連関性,試料汚染対策について意見交換し,課題の整理と,それに対する対応を図ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 試料採取:平成26年度中に,本研究に必要な堆積環境が異なる水田耕土層と,考古学的な発掘情報が得られた推定畠土壌層の土壁試料を収集できた。 2 肉眼による耕土構造解析:秋津遺跡と砂沢遺跡の水田耕土層下底面では,多くの根痕に混じり,層界の明確な断面V字形やU字形の小さな凹部を観察でき,耕土内では土粒子や径数㎝のブロック土の挙動を観察できる。農耕具による掘削作業や耕起作業の痕跡と考えられ,耕作具や耕作に伴う人間の所作を推定できる見通しを得た。秋津遺跡試料では,微細堆積相解析によって地震痕跡と考えられる上方への下層土壌の脈状の陥入が指摘された。肉眼によっても観察可能で,こうした変形を含めて耕土構造解析を進めることが必要となってきた。また,遠沈管を用いた粒径観察と粒度分析の成果から,上下層と比べて粒径の著しく異なる砕屑物が混在し,とくに細粒シルト~粘土に粒度分布が偏ることが指摘できる。灌漑水田耕土の特徴の一つと考えられる。 一方,文京遺跡44次調査の推定畠地の土壌微細形態解析では,土壌層下底面で確認された凹部の断面に根痕や棲管の輪郭が重なること,畠土壌に通常見られる団粒構造や粗孔隙,炭や植物遺体片がほとんど見られないことから,畠土壌と認定することに否定的な見解が出された。これに対して,考古学側からは,推定畠地土壌層下底面の凹部が規則的な形状をもつこと,偽礫の偏在性,遠沈管を用いた粒径観察で抽出できた黒褐色泥の存在などから反論があった。 3 微細植物遺体片分析:秋津遺跡を中心として分析を進めた結果,耕土内に微細植物遺体片が集積されていることを確認できた。土壌の生成による植物遺体が分解した結果と捉えることができ,分解過程による類型化できる見通しを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間中の試料収集は,前年度に採取した秋津遺跡・砂沢遺跡・安満遺跡の水田耕土層,文京遺跡44・45・60次調査畠遺構と考えられる土壌層の土壁試料にとどめる。各遺跡の試料を,考古学,地質考古学,システム環境学,プラント・オパール分析の研究者で集中して分析して相互に検討し,農耕空間の認識と認定要件を考察する。 1 肉眼による耕土構造解析:前年度に指摘された後世に生じた耕土の変形構造にも留意しながら,耕土内の偽礫やブロック土の形状や分布(配列)を分析し,土壌微細形態解析や粒度分析を加えて耕土の構成と構造を把握し,耕土内に残された人間の所作や耕起具などを推定して耕作形態を復原する。前年度,問題となった考古学と微細堆積相解析の観察結果の齟齬については,奥行き15㎝ほどの厚みのある土壁試料を採取していることを利用して,耕土内の偽礫やブロック土の形状と挙動を3次元的に観察することで解決ができるものと考えている。 2 微細植物遺体片分析:水田耕土層と推定畠土壌層に集積された微細植物遺体片の類型化を試みる。その結果,耕土内に残された栽培作物及びその利用部位を究明する手がかりを得られるものと考える。 3 試料汚染対策の試行:微細植物遺体片を含めて分析の前提となる試料汚染対策について,肉眼による耕土構造解析と微細堆積相解析の成果を踏まえて採取箇所や手法を点検した上で,プラント・オパール分析の試料を再度採取・分析し,本来の耕土部分と擾乱部分の分析結果をつき合わせ,試料汚染の程度を有無ではなく,「確率」として捉えるリスクマネージメントの着想で試行する。 4 研究会の開催と研究成果の発信:2回の研究代表者・分担者,研究協力者,関係する分野の研究者が参画する研究会を開催し,個々の分析成果をつき合わせ,研究成果をとりまとめるとともに,研究成果を発信する。
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Research Products
(10 results)