2014 Fiscal Year Research-status Report
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26580139
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高橋 龍三郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80163301)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大網 信良 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (10706641)
平原 信崇 早稲田大学, 付置研究所, 助手 (60731180)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 土器型式 / 民族誌調査 / 親族組織 / 儀礼 / 呪術性 / 精神世界 / クラン / ヤムカルト |
Outline of Annual Research Achievements |
土器型式がなぜ成立するのか、あるいはなぜ変化するのかの課題は、日本考古学の大きな課題であったが、今日まで十分に解明されたとは言い難い。本課題につき、申請者は2014年8月9日~8月23日までの2週間、パプアニューギニアの東セピク州のミノウ村とコイワット村に出張して、土器製作に関する民族誌調査を実施した。ミノウ村はクウォマ族、コイワット村はサウォス族に属しており、素焼の土器を製作している。今までの調査により、土器型式が製作者たちの精神世界と強く関連することが推測されたので、ミノウ村の調査では、アパウ、ワサウ、アウマルなどの儀礼用土器の製作技法と製作中の呪術、儀礼性について調査した。それらは、ヤムカルトの参画者であり、しかもイエナ、ミンジャ、ノグイ階層という3階層の最高位ランクのノグイ階層の特定人物、しかも特定クランだけが製作できる。一部の成人しか参画できないヤムカルトの秘術性、呪術性、霊性(spirits)は、参画する個人の精神を強く規定しており、彼らが製作する土器は、ヤムカルトを背景として優れて呪術性と霊性が強いものになっている。製作者が土器を製作するときに、どのようなことを頭に描いているかを、製作現場で聞き取り調査した。製作者は社会秩序の安寧と豊穣を祈願するが、彼らの呪術・儀礼と、彼らが保有するトーテムや精霊が強く関与している可能性が高く、彼らは土器文様の中に、それらを巧みに織り込むのである。今回の調査では、今まで不明であった抽象的文様の図象上の意味と内容について詳しく聞き取ることができた。調査の結果、「トリの動脈」、「クモ」、「コウモリ」、「蝶々の卵」などの文様内容がデフォルメされていることを突き止めることができた。その文様がなぜ織り込まれるのかというと、それらは、彼らが呪術や儀礼などにおいて必要とするアイテムであり、それらを駆使して彼らは呪術、儀礼を執り行うのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
民族誌調査では、PNGのセピク川流域とミルンベイ州イーストケープの2か所を選んで調査しているが、両地域は共に素焼土器を生産する地域で、しかも単なる日常生活を超えた儀礼や呪術性との関わりで製作・使用されている。しかし、その程度は両地域間で差異が認められ、セピク川流域では伝統的世界の慣習に統制されて、往古の呪術や儀礼などが残されて、土器製作においてもその側面は強く保存されている。一方、イーストケープでは、キリスト教をはじめ日常生活においてかなりの変革を遂げているために、ここ数十年は伝統的土器製作が日常的使用の意味を持ち始めている。しかし、その場合でも土器型式の在り方は伝統的社会の在り方に関連し、親族組織や出自制度、婚姻体系、伝統的世界観などの影響下にある。今回の調査は往古の姿を留めるセピク川流域のクウォマ族とサウォス族の土器製作の観察から、土器そのものに含意される秘儀性、呪術性などを明らかにして、彼らの生活の中心にある「ヤムカルト」との関連から読み解くことを企図している。 今回の調査は、セピク川流域において実施し、特にクウォマ族のミノウ村において、ノグイ階層に属し、しかも特定クランに属する成人男子しか製作を許されない儀礼用土器の製作について調査することができた。そこでは土器文様に単なる装飾を超えた儀礼的、呪術的な内容が表現され、家族や同じ集団に対してさえ秘匿される秘儀性の高いことが解明された。文様の具体的内容についても、本来は秘匿されるべきものであったが、聞き取ることができたのは大きな成果であった。ヤムカルトなどで、それらの土器文様は有為な意味を持ち、儀礼などで土器製作者が、その文様を使って秘儀性の高い儀礼を執り行うのであろう。土器製作とは、製作者が製作後の儀礼的使用を念頭に入れて製作するものであることが理解され、縄文土器の文様などを理解する上で大変重要な情報となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、ミルンベイ州、イースト・ケープのトパ村に出張し、土器製作にあたって指導的役割をはたす一人の女性、「D女史」の宗教的、呪術的立場について聞き取り調査を実施する計画である。幸い、優れたインフォーマントに恵まれたので、D女史以外の女性たちのカスタム社会における宗教的・呪術的生活について調査する計画である。現在はキリスト教の一派に属しながら敬虔な教徒として生活する反面、カスタムの伝統的な社会生活や文化を長きにわたって保持しており、その中に伝統宗教、呪術的生活があり、また土器製作があるので、それらの脈絡を確認しながら調査したい。 その調査のために、研究分担者たちとチームを組みながら、夏季休暇を利用して2週間の現地調査を計画している。トパ村ダワタイを基点に近隣のクァピクァピアに居住するD女史について、彼女の交友関係と関連する宗教的組織などを解明して、土器文様と霊、先祖との関係などについて明らかにして行きたい。彼らの宗教や信仰は30kmほど離れた場所のワットノウなどに残る100年ほど前の石刻遺構やトパ村に今日も残る石棒遺構などと関連を持っているように思えるので、それらを詳しく聞き取り地方的な呪術信仰の歴史の中に入り込んで明らかにする計画である。それらの歴史的遺産は100年ほど前には確実に存在した未開社会の思惟や霊信仰・呪術と関係しており、それらが今日でも大切に家々の敷地内で申し合わせた様に樹立して保存されていることを見ると、秘密にしているものの、それに纏わる呪術的内容が今もなお重要な社会の結節点として機能していることが解る。 トパ村の調査結果を2014年度にセピク川流域で実施したミノウ村でのデータと比較し、両地方の差異と相似点を抽出しながら理論化する。特に未開社会の中で、異なる地域の土器製作者たちが、土器文様として思い描く精神世界の実相を理論化することを考えている。
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Causes of Carryover |
205円の差額が生じてしまったが、その大きな理由は、図書費(洋書)などの消耗品費で、計画と実際の間にわずかな値段の差額が発生したためである。単直に言えば当初予定していた金額よりも廉価の図書を購入したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
205円は27年度の調査計画にのっとり、直接経費に組み込んで、パプアニューギニアにおける民族誌調査の中で使用することを計画している。
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