2014 Fiscal Year Research-status Report
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26580147
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
北村 光二 岡山大学, 社会文化科学研究科, 特命教授(研究) (20161490)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 島嶼社会 / ヤップ島 / 貨幣経済化 / 近代化 / 贈与慣行 / 社会秩序 / 平等 / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、島嶼社会が外部世界への依存の増大と伝統的な地域共同体の弱体化という近年の変化に直面しながら、地域社会の持続可能性という展望を確保しようとしたとき、どのような選択を行わなければならなくなるかを解明しようとするものである。本年度は、ミクロネシア連邦ヤップ島において現地調査を行った。 この調査では、独立後のアメリカからの財政援助の増大を背景に、公務員その他の賃金収入が生計維持の基盤となり、貨幣経済化と生活全体の近代化が進展している中で、地域社会の持続可能性を確保するための手がかりとして、何に注目すべきかを探った。今回の調査では、このうちの生業・経済領域に焦点を当て、この社会における伝統的な贈与慣行がどのように変容しつつ維持されているかについて、実態の把握に努めた。 変容が顕著な側面としては、かつての自給的な食料生産活動の比重が明らかに低下し、食文化の後戻りできないような変化が進行しつつある。同時に、現金の需要は否応なく高まっていて、現金獲得のためのさまざまな活動が繰り返し試みられているが、新規の事業はきわめて限定的であり、農水産業の近代化につながる変化は皆無に近い。その原因として、人々の共存を支える社会秩序の根幹にある伝統的な贈与慣行が考えられる。慣行のあり方と近年の変化について、以下の3種類を区別して資料を収集した。①姻族等の特別な関係における相互的な贈り物:現在も変化ない。②困難に直面した仲間への一方的な援助:かつて存在しなかった葬儀における現金による大掛かりな援助。③財の集積時になされる義務的な分配:かつてなかった現金も。 これらの贈与慣行のあり方は、人びとの間に財が平等に共有されるようになることを望ましいものとする社会秩序を確保することになっており、貨幣経済の急速な浸透のもとでグローバルな競争世界に飲み込まれてしまう危険を回避する力になっていると評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度~24年度のヤップ島における調査では、中国企業による大規模リゾート開発計画の発表に対して起こった住民の反対運動を取り上げ、それをこの島に暮らす人びとが自分たちの生活を持続可能なものにしようとして取り組んだ運動として分析した。その際、伝統的な土地所有制度に支えられた階層的な権威構造が隠然たる影響力を保持し続けているにもかかわらず、この反対運動が「ヤップ島に暮らす人びと(=Yapese)」という彼らの平等な社会関係を前提としたまとまりが前面に出てたものであったという点が、その後に続く研究において解明すべき課題として残されることになった。 今年度のヤップ社会の「贈与慣行」についての研究によって、この慣行が、財の利用・消費おける人びとの間の平等主義的関係を生み出す装置として機能していることが示されたが、それによって、現在見られている現象が、単なる伝統的社会構造の解体によってもたらされたものでもなく、かといって、近代化の圧力に対する伝統の抵抗に帰されるべき問題でもないことが明らかとなった。したがって、これ以後の研究にとっての課題は、グローバルな広がりを前提にした環境への適応に向けた地域の資源の活用の可能性を、伝統的なものとの連続性を確保したより長期にわたって持続する社会秩序への展望のものとで考察することが求められることになるのだと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
島に暮らす人びとは、島嶼社会にある「資源が限定的で環境変動の影響を蒙りやすいことに由来する不確実性」に何とか対処しなければならないという条件のものとで、同じ条件を背負う仲間との間に「地域的なまとまり」を生み出して、直面する個々の課題に集団的に対処しようとしていると考えられる。今回の研究成果によって、このような条件下での集団的対処において、仲間との「平等な関係」を前提とする柔軟性の高い臨機応変な協力体制の構築が不可欠なものになるというこの研究の中核的な仮説が、有効なものでありうるとの示唆が得られた。 今後の調査では、さまざまな島嶼社会を取り上げながら、「地域的まとまり」を作り出したり維持したりすることそのものに直接結びつく伝統的な、ないしは、新規の行事やイベントにおける人びとの協力体制のあり方を具体的に分析・考察し、一方で、地域にある資源を活用した地域活性化の試みにおいて、どのようなキーパーソンのもとでどのような人間関係が活用されて、集団的な問題対処が実行されているのかを分析・考察することによって、この仮説の有効性を検証するという方向性を推進することができると考えている。
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Causes of Carryover |
平成26年度の研究計画においては、前半の時期にヤップ島における現地調査を行ったうえで、後半に瀬戸内海島嶼部での補充的な調査を行う予定であったが、前半の調査での研究費が予定を超過するものになったことと、後半に突発的な事情が発生したということがあって、残額を次年度の調査に回して、その充実を図ることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度においては、これまでの調査実績のある瀬戸内海島嶼部を含めて、日本の島嶼社会を、その多様な条件の下で比較検討しながら、周囲の環境にある資源を活用しつつ適切な関係を維持しようとする活動という側面と、個々人の動きの重なり合いとしての社会システムを構成する活動という側面の相互の関係のあり方について、各事例ごとの多様性を前提に具体的に検討したい。
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Research Products
(2 results)