2015 Fiscal Year Research-status Report
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26580147
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
北村 光二 岡山大学, 社会文化科学研究科, 名誉教授 (20161490)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 島嶼社会 / 人口流失 / 主体的選択 / 平等主義的関係 / 持続可能性 / 競争原理 / 地域の消滅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、島嶼社会が外部世界への依存の拡大と伝統的な地域共同体の弱体化に伴う歯止めのない人口流失に直面しながら、地域の消滅という極限的事態を何とか回避しようとするときに、どのような選択が求められることになるのかを解明しようとするものである。本年度は、瀬戸内海の頭島、琉球列島の粟国島、小笠原諸島の父島において現地調査を行った。 それぞれの地域が置かれる状況は実にさまざまである。頭島では、本土との距離が近いという条件のもとで30年近くの準備を経て近年本土との架橋を実現し、次の新たな局面に入りつつある。父島では、2011年のユネスコ世界自然遺産への登録をてこにした観光産業の成長に生き残りをかけようとしている。粟国島では、沖縄振興のための補助金を用いたインフラ整備を進めつつも、近年は特別な生き残りの試みは為されていない。 個々の状況は大きく異なるが、その背後には、若年層を中心にした人口流出という課題が厳然として存在していると考えなければならない。なぜならば、今や島を出てより豊かな生活の可能性を手にしようとすることはごく当たり前の選択なのだから。ただし、その一方で、本土においては「競争原理」の卓越のものとで大多数の者が敗者にならざるを得ないという現状があることも明らかになりつつあり、「島で暮らし続けること」は、もはや、たんなる敗北主義的な選択ではなくなっている。むしろ、直面する問題にきちんと向き合って「主体的」に選択するうえでの有力な選択肢になっているのだと考えられる。 それは、より大きな観点からいえば、特定の場所に暮らし続けることに肯定的な価値を見出すという問題になるが、それぞれの調査地において、人びとの関心は、①長期間にわたって維持される環境との適切な関係を選び取ろうとすることと、②同じ場所に暮らす人びとが共有できる暮らし方を選び取ろうとすることにあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度のミクロネシア連邦ヤップ島での調査では、島社会の存亡にかかわるような外国企業による大規模リゾート開発計画への反対運動において、前面に現れた「島民間の平等主義的な関係」が日常生活におけるどのような社会関係に根差すものであるかについて研究を行ったが、今年度は日本の島嶼社会において、地域社会の消滅への危機感を共有する人びとの協働を支えている関係について、伝統的な地域共同体のそれとは区別できるどのような関係が生み出されることになっているのかを明らかにしようとした。 例えば、頭島では、架橋計画の実現に向けて島民のすべての世帯が参加して積立預金を行い、建設推進に向けた活動における協力体制が平等主義的な仲間関係にもとづいて構築・維持された。一方小笠原では、観光産業の成長に向けて、観光協会の会員間の平等主義的な協力体制が確立しつつある。ただし、粟国島については、伝統的な地域共同体の人間関係とは区別できるどのような関係が生み出されつつあるのかについて、ほとんど何の手がかりも得ることができなかった。 その一方で、環境との持続可能な関係の構築・維持に関しては、島嶼社会は一般に利用可能な資源が貧弱であることから、未利用の自然を売り物にした観光産業に依存する体質を持っていると考えられる。したがって、小笠原の場合に顕著なように、自然環境の保全に熱心である場合が多いが、今回の調査では、そのこと以上に、地域の自然環境に対する特別なこだわりのようなものを見出すことができたとは言えない。唯一の例外として、父島において、環境保護の立場からは悪者にされてしまう外来植物に対して、かつての島での生活に不可欠なものという観点から保全の対象に含めようとする試みがあることを見出した。 以上の問題について、それぞれの島ごとの条件の違いに即した、より多様な具体例を収集し、議論を深めることが必要だと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
島嶼社会は、狭小な土地と貧弱な資源という逃れようのないハンディキャップのもと、近代の浸透以降はいつの時期においても人口流出という課題と向き合わざるを得なかったのであり、「島に暮らし続けること」は、個々の住民が「主体的」に選び取るべき選択肢であり続けてきたのだと考えられる。現在、日本中の「地方」において、地域の消滅という困難が現実的な課題になりつつあるときに、小手先の対応でこの困難をやり過ごすのではなく、それを真正面から受け止めようとするのでれば、これまでの経験の蓄積を持つ島嶼社会の住民の対応のあり方には多くの学ぶべきものがあると考えられる。 今後の調査では、日本のさまざまな島嶼社会を取り上げ、地域の環境に適応した持続可能な暮らしの在り方と地域的なまとまりを生み出す協力体制のあり方に焦点を当てて可能な限りのデータを収集し、それを「同じ場所に暮らし続けること」に肯定的価値を見出そうとするうえでの実践的解答例として、分析・考察する。
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Causes of Carryover |
本研究は、フィールドワークにもとづく人類学的研究であり、研究のためには調査地に滞在することが必須の条件になるが、本年度の沖縄・粟国島の調査においては、たびたびの台風襲来によってフェリーが欠航し続け、2度の計画の変更と遅延を余儀なくされた。そしてその後の別の調査において、研究代表者の体調不良によって長期調査が不可能になり、この研究の次年度への延長を決断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本のさまざまな島嶼社会を取り上げ、地域の環境に適応した持続可能な暮らしの在り方と地域的なまとまりを生み出す協力体制のあり方に焦点を当ててフィールドワークを行う。それによって可能な限りのデータを収集し、それを「同じ場所に暮らし続けること」に肯定的価値を見出そうとするうえでの実践的解答例として、分析・考察する。
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Research Products
(2 results)