2015 Fiscal Year Research-status Report
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26580148
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
慶田 勝彦 熊本大学, 文学部, 教授 (10195620)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水俣病(事件) / 土本典昭 / 映像人類学 / ドキュメンタリー / 次世代への継承 / 社会連携 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、次のような研究活動を実施した。 第一に、交付申請書に記載した目的に沿って研究活動を行ったが、平成26年度の研究活動実績を踏まえ、平成27年度に予定していた研究実施計画の内容は一部変更した。特に土本典昭作品については映画の鑑賞と分析よりも、本研究活動に組み込んでいた熊本大学学術資料調査研究推進室(水俣病部門、以下「推進室」と表記する)のセミナー活動を通して、土本作品の背景となっていた水俣病および水俣病研究についての医学的研究および人文社会科学的研究の意義と課題について検討した。講演は研究協力者の富樫貞夫に依頼し、シリーズ講演として4回開催した。その講演は毎回録音し、録音記録は書き起しているが、2回分の書き起しは次年度に繰り越した。この成果は書籍等の形態で平成28年度に刊行する。 第二に、「推進室」の資料を整理する過程で、「推進室」に残されていた土本作品『水俣ー患者さんとその世界』(1971)のオリジナル音声テープが発見されたため、本テープの保存および資料的価値の検討作業を研究協力者の有馬澄雄と行い、平成28年度には他の土本作品の映像・音声資料や今後の上映会について土本基子氏(藤沢市在住、故土本監督夫人)と打合せをする準備を整えた。また、『水俣ー患者さんとその世界』については当時の撮影に関係した人物やその関係者へのインタヴュー等の調査をミナコレ(水俣コレクション代表・吉永利夫)および水俣環境アカデミー等の協力を得て開始した。 第三に、『水俣ー患者さんとその世界』の背景となっている現場を再訪し(2017年3月)、映像人類学的な観点からシモーネ・グラッシ(イタリアの映像作家)、ジョシュア・リカード(熊大の映像人類学者)、香室結美(科研研究員)にも加わってもらい、写真撮影と現場の音の収集を行った。 一部活動内容を変更したが研究目的に向けての作業は概ね順調に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記(2)と判断した理由は以下の通りである。 第一に、本研究は水俣病事件を次世代へと継承してゆくために土本典昭監督が残した映像作品を焦点化し、映像人類学の観点から水俣病に関する国際的な共同研究を推進するための基盤を構築することを目的としているが、この目的は順調に進展しているからである。平成27年度においては、土本作品の理解を深めるために水俣病研究についてのセミナーを開催し、土本作品でも重要なテーマとなっていた医療的な研究と人文社会科学的な研究の功績と課題を明確にすることで、本研究ではまずは『水俣ー患者さんとその世界』を徹底して検討する必要性があることを確認できた。 第二に、熊本大学のグローバル教育カレッジに属するジョシュア・リカード(映像人類学)とイタリアの映像作家シモーネ・グラッシを加えた国際的な共同研究の基盤を構築し、映像とサウンドを中心とした水俣病研究について検討することができた(両者を加え、水俣での撮影旅行も実施した)。また、映像人類学的にはR.ワーブナーが提唱している「カウンター・ポイント」(映像を閉じた作品にするのではなく、当事者や関係者を含めて作品を鑑賞してもらい、感想やコメントを含む鑑賞プロセスを作品の「カウンター・ポイント」として展開すること)を共同研究の中核に据えてゆくことが確認された。 第三に、「おおむね」としたのは当初の計画では土本作品を年代、テーマ別に分け、その作品を映像人類学の観点から分析するという課題が含まれていたが、土本作品関係の未公開資料の今後の保存と活用が重要な課題となり、また『水俣ー患者さんとその世界』を中心とした「カウンター・ポイント」プロジェクトを国内外で展開してゆくための基盤が構築されたことによって、具体的な研究や作業内容を一部変更したためである。けれども、冒頭で述べたように本研究の目的達成に向けての作業は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究課題の最終年となるが、次のように研究を推進する。 第一に、熊本地震の影響もあり、土本監督作品に関係する資料を中心に現有(連携研究機関である熊本大学学術資料調査研究推進室:水俣病部門)の資料(写真・音声・ノート)の再編と保存を行うと同時に、未公開の資料については故土本典昭監督の夫人(土本基子氏)および助監督等との面談(すでに準備は整っている)を通して、今度の資料保存や活用の形態についての基本方針を確定してゆく。 第二に、『水俣ー患者さんとその世界』についての「カウンター・ポイント」プロジェクトに着手する。上映会場は水俣市(水俣環境アカデミー)、熊本市(熊本大学)、東京(三田:熊本大学リエゾン・オフィス)の三ヵ所を予定している。水俣では主に作品関係者とともに上記作品を鑑賞し、当時の撮影状況や社会状況等について自由に語ってもらう(許可がでればその様子を写真・動画撮影する)。熊本大学では学生や教職員、一般市民を中心に土本作品を鑑賞してもらい、映像作品としての価値や水俣病研究としての価値等について自由に語ってもらう(許可がでればその様子を写真・動画撮影する)。東京では土本作品関係者、東京の水俣病支援者、東京の水俣病関係者等に作品を鑑賞してもらい、土本作品や東京・水俣フォーラム等について自由に語ってもらう(許可がでればその様子を写真・動画撮影する)。 第三に、平成28年度末までにこれまでの研究活動について、特に『水俣ー患者さんとその世界』についてのレヴューあるいは論文を執筆し、その論文を基に国際学会での発表(平成29年度以降)および英語での論文刊行を目指してゆく。
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