2014 Fiscal Year Research-status Report
受任者の利益吐き出し責任の確立―原状回復法と不当利得概念の関係を手がかりに
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26590008
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
櫻井 博子 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 助教 (00620212)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 利益の吐き出し / 信認関係 / 原状回復法 / 委任 / 信託 / 忠実義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、英米法において①日本法と同じく、損失を基準とする法体系のもとで、利益の吐き出しの位置づけに関する議論が存在することを明らかにし、その上で(体系上の問題はありながらも)②抑止機能を有する賠償責任としての利益の吐き出しが適用されている具体的な状況を分析し、日本法への示唆を得ることである。 平成26年度は、イギリス法における原状回復法および不当利得の概念との関係に関し、学説上の理論展開を中心に検討を行う計画であったが、資料の収集・分析を進めていく中で、②賠償責任としての利益の吐き出しの基礎研究に属する内容について、一定の成果が得られたため、その成果の一部につき、2つの論文を公表した。 1つは、利益吐き出しの要件である忠実義務の厳格性と責任範囲に関するものである。イギリス法では、忠実義務違反を行った受認者のみならず、義務違反を幇助した第三者も責任を負うと解されている。その責任の性質は、信認義務違反の従たる責任であり、受認者と連帯して責任を負うと解されていること、その認定の際に裁判所は、誠実な人物が行う行為か、という客観的基準を用いるが、さらに幇助行為の違法性の認識という主観的要素を取り込むべきかについては、判例の見解が分かれていることを明らかにした。 もう1つは、アメリカで、2011年に75年ぶりに改正された、第三次原状回復・不当利得法リステイトメントにおける、吐き出し責任に関する議論を整理したものである。新たなリステイトメントでは、違法な利益を擬制信託の対象とすることで、間接的に吐き出し救済の存在が見出された第一次リステイトメントとは異なり、規定によってその存在が認められている。その範囲は、当該違法行為を通じて得た利益に限定される必要がある、とされるが、損失との因果関係を要しない同責任の範囲を如何に判断すべきかについては、学説上の議論があることにつき、紹介・分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初26年度は、イギリス法の不当利得概念と原状回復法の関係に関する学説の理論を検討する予定であった。しかし、リステイトメントの改定を契機として議論の興隆が見られたことから、アメリカ法の分析を先に行うこととした。 アメリカ法の検討では、本来であれば、原状回復法と不当利得概念との関係をめぐる議論の検討と、第三次原状回復・不当利得法リステイトメントの吐き出しの具体的な規定を中心とする検討の2点に焦点を当てて検討を行う予定であったが、所属先の移動などがあったことにより、後者のリステイトメントの吐き出しに関連する規定の検討にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はまず、検討が遅れたアメリカ法の原状回復法と不当利得概念との関係につき、リステイトメント改定時になされた議論を中心として検討を行う。アメリカ法のリステイトメントの改定時には、イギリス法の議論も参照されているため、要点を押さえ、効率的に、大きな論争となっているイギリス法の不当利得概念と原状回復法をめぐる議論について、資料収集・分析の作業に着手することが可能になると考える。検討作業を進めていく中で得られた一定の成果は、論文の公表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は2つ挙げられる。ひとつは、所属先の移動により、研究環境が整うまでの間、研究手法が一時的に限られたことである。もうひとつは、本年度はアメリカ法を中心に比較法検討を行ったのだが、所属先が契約しているデータベースを利用して、主な資料が入手できたため、効率的な研究を推進したことである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、平成27年度請求額と平成26年度未使用額とをあわせて、平成27年度の研究遂行に使用する予定である。具体的には、物品費に関しては、本研究遂行に必要な基本文献等の書籍の購入を行う予定である。旅費に関しては、文献収集や、本研究課題に関連するシンポジウムや研究会への出席するための出張を行うために利用する予定である。
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Research Products
(2 results)