2015 Fiscal Year Research-status Report
近世国家形成期におけるイギリス自治都市の公式と非公式―複眼的経済史研究の方法―
Project/Area Number |
26590053
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川名 洋 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70312527)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 都市史 / 福祉 / 高齢化 / チャリティ / 慈善 / 貧困 / 自治体 / 法人化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイギリスの自治都市を主な研究対象に、公と私、富裕層と貧困層、男性と女性、あるいは、形式と実際という二項が対立して錯綜する経済社会へ接近するための社会経済史の新しい研究方法を確立することを最終の目的とする。かかる目的を達成するために、複眼的分析手段となる「公式」と「非公式」という新たな分析概念を提起したが、その有効性を検証するため産業革命以前の国家形成期において、経済発展を支えた市民性の芽生えとそれを全国に浸透させた都市化の意義解明に新概念を応用し、草分けとなる経済発展が市民の関与する社会的プロセスに連動するという西欧近世の特質へせまる。 本年度の研究では、都市人口増加に伴う社会環境の変化が都市の制度、組織、景観へ作用した経緯について、高齢者救済の受け皿となる救貧施設の発達を中心に関連するこれまでの研究成果を精査し論点の整理を行った。その結果、こうした施設は民間の資金を財源に、弱者の救済を目的とし都市周辺に建設されることが多く、当初から政府、自治体、富裕層、教会といった異なる勢力の利害関係が交錯する公の組織として分析できることがわかった。これら施設は、激しい人口変動と物価上昇の時代に高齢者・貧困者を対象とする福祉政策の一翼を担うことが期待され、都市自治体は信託団体として同施設の管理・運営を行う。その資料から法令に基づく信託機能の制度化について分析が可能となり、財政福祉国家形成以前の福祉サービスの利点と弱点を明らかにすることができる。これらの発見により、イギリス自治都市特有の社会構造について「公式」と「非公式」の関係という分析概念を用いて解明する有効な手掛かりが得られる見通しをつけた。本調査では、以上の点を踏まえ必要な基礎資料を整えつつあり、現在、実証分析に向けた予備的研究を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「公式」と「非公式」 という新たな分析概念を用いその有効性を検証する本研究の目的に必要な基礎資料の調査と収集が支障なく進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究成果により得られた知見をもとに、実証研究に向け予備的研究を継続する。これに加えて、都市における福祉政策を解明するためには関連する制度蓄積の状況をさらに十分把握する必要が生じたため、 救貧政策を律する法制度に関する資料調査も視野に、都市経済とガバナンスとの関係を具体的に知る上で効果が期待できる方法について精査する。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究において国内図書館等所蔵の資料調査と収集を優先し、当初予定していた旅費の執行額が抑えられたため。また、年度により刊行される図書に予想できない増減があり、本年度の特に関連図書の刊行が少なく、 購入するための使用額も少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度以降において、当初計画したよりも国内外において収集すべき資料とその調査量が増えることが見込まれるため、 翌年度以降の関連資料の調査・収集に向けて当該助成金を次年度以降の旅費・物品費等に合算して使用する。
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