2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26590054
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塩谷 昌史 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (70312684)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 帝政ロシア / 統治構造 / 統治手段 / 統計制度 / 日本 / ヨーロッパ / 国民国家 / 社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、科学研究費の課題研究の初年度であり、かつ、今後の比較研究の基礎となる研究に取り組むため、統計制度の形成史に焦点を当て、日欧露の統治構造の違いに関する仮説を準備した。 19世紀以降、ヨーロッパ諸国は国の統治手段として統計制度を発展させる。1851年のロンドン万博で国際統計会議の定期開催が提案されて以降、ヨーロッパ各地で国際統計会議が開催されるが、ロシアもその会議の常連メンバーであった。実際に、1872年にロシアのサンクトペテルブルクで国際統計会議が開催されている。したがって、ロシアの官僚(統計専門家)は、ヨーロッパの統計制度に通じ、統計の標準化や国際比較に関わった。 他方、19世紀後半に日本は開国し、ヨーロッパで完成した国民国家モデルを導入した。日本とヨーロッパは旧来の身分制を廃止し、国民の一体化を進め、公的空間である「社会」を創り上げた。「社会」が成立するためには、身分や宗教を抑え国民意識を高める必要がある。19世紀にロシアは国民意識を育めなかったため、20世紀初頭にも、日本で成立した「社会」はロシアに誕生しなかった。ロシアは最新の統計制度に通じていたが、「社会」が存在しない以上、近代の統計制度を包括的に導入できなかった。また、ロシアは統計の国際標準化にも関与できなかった。 19世紀にロシアは貿易統計や定期市統計等の分野でヨーロッパの水準に達するが、「社会」統計の発展は望めず、統計の国際標準に対応できなかった。ロシアの統計制度は優れていたが、「社会」=「国民」を創造できなかったことがロシアの限界であり、それは統治構造の限界でもあったと考えられる。 上記の内容は、2014年に山口大学で行われた「比較経済体制学会」の自由論題報告で、「帝政ロシアにおける統治構造の卓越性と限界について―統治手段としての統計の観点から―」という論題で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は、研究課題について基本文献を閲覧収集することと、ロシアの図書館で帝政ロシア時代の内務省と大蔵省の新聞・雑誌を閲覧することを目指していたが、基本文献の閲覧集と仮説を構築することには成功したものの、ロシアに滞在し内務省と大蔵省の新聞・雑誌を閲覧することができなかった。 それは、東北大学とモスクワ大学との協力を基に、「伝統と現代の対話」というテーマで、人文社会系の日露の研究者を仙台に集め、27年3月に「第3回日露人文社会フォーラム」を組織したためである。これは、日露の様々な人文社会領域の研究者を招聘し、深い議論を目指したものであり、非常に充実した内容になったものと自負している。このフォーラムの実施により、日露の学術交流には貢献したが、準備に忙殺され、ロシアの図書館での新聞・雑誌の閲覧時間が取れなくなった。この遅れは27年度に取戻し、最終的には研究課題の目的を遂行したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、平成26年度の遅れを取り戻すべく、ロシアに2度、合計6週間の滞在を予定している。まず、9月にサンクトペテルブルクに3週間滞在し、大蔵省の雑誌『金融・工業・貿易通報』(1883-1917)と同省の新聞『商業―工業新聞』(1893-1918)の閲覧を行う。 また、28年3月にもサンクトペテルブルクに3週間滞在し、ロシア内務省の新聞『北の郵便』(1862‐1868年)と、同省の新聞『政府通報』(1869-1918)の閲覧を行いたいと考えている。27年度中には、中間報告を学術論文として学会誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
本来なら平成26年度中に、ロシアのサンクトペテルブルクに3週間滞在し、帝政ロシア期に大蔵省と内務省に発行された新聞・雑誌を閲覧する予定であったが、本務校の要請により、平成27年3月にモスクワ大学と共同で「第3回日露人文社会フォーラム」の準備・運営に携わったため、サンクトペテルブルクへの出張が不可能になった。そのため、ロシア出張旅費としての40万円強の金額が余ることになった。この余剰金額は、研究の遅れを取り戻すべく、平成27年度中に2回、サンクトペテルブルク出張を入れることで、有効に活用したいと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の9月にサンクトペテルブルクに3週間滞在し、大蔵省の雑誌・新聞を閲覧することに、上記の余剰資金を充てる予定である。また、27年度分の研究費は、平成28年3月に再度サンクトペテルブルクに3週間滞在し、内務省の新聞・雑誌を閲覧することに充てたいと考えている。
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Research Products
(5 results)