2015 Fiscal Year Research-status Report
日本中世寺院会計史―東寺の会計システムと会計的思考の解明―
Project/Area Number |
26590081
|
Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
三光寺 由実子 和歌山大学, 経済学部, 准教授 (60549301)
|
Project Period (FY) |
2015-03-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 債権の回収可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①光明講方算用状における会計システムの把握における(1)光明講方算用状の構成と計算手法の考察(2)光明講方算用状をめぐる帳簿組織の考察(3)光明講方算用状における会計システムの転換期の考察を全般的に考究するとともに、② 光明講方算用状における会計史的意義の究明(1)光明講方算用状に見る会計思考の解明(2)光明講方算用状の社会的インパクトに関する究明についても部分的に検討することができた。①光明講方算用状における会計システムの把握については、以下の三点が成果の要点である。第一に,光明講方算用状の作成に至るまでに,簿記一巡の手続きの中で用いられる各関連文書は,光明講方年貢散用状を除き,収入・支出の内容に応じて現金出納帳を分割したものと考えられた。第二に,不良債権の処理直後である長禄2年(1458)から寛正3年(1462)までの光明講方算用状では,債権額を収支差額に含めて繰越が行われていた。これより,当該算用状は,一時期とはいえ,単純な現金主義を脱したものを含むことがうかがい知れた。第三に,光明講方の構成員からの定期的な徴収(出銭)の未進に関する算用状への記載時期と,収入の原始記録たる光明講方料足注文の登場時期がほぼ合致していた。すなわち,光明講方料足注文は,出銭の未進を把握する役割も担ったと考えられた。以上より,権の回収可能性への危惧が,帳簿組織や帳簿上での債権の認識に変化を与えるという一例を,光明講方算用状から読み取ることができた。② 光明講方算用状における会計史的意義の究明については,ギデンズの構造化理論を用いて,光明講方算用状が東寺の水平的関係にある他の組織にいかなる影響を及ぼし,それが東寺の存続につながったのかを考究した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
想定していた第2段階の(2)まで,すなわち第1段階である①光明講方算用状における会計システムの把握(平成26年度実施予定)(1)光明講方算用状の構成と計算手法の考察(2)光明講方算用状をめぐる帳簿組織の考察(3)光明講方算用状における会計システムの転換期の考察および第2段階である② 光明講方算用状における会計史的意義の究明(平成27年度以降実施予定)(1)光明講方算用状に見る会計思考の解明(2)光明講方算用状の社会的インパクトに関する究明は一応進んでおり,残すところは第2段階の最終ステージ,(3)高野山谷上院の陀羅尼講の勘録状との比較のみであるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,「研究実績の概要」および「現在まで進捗状況」に記載した,第2段階,光明講方算用状における会計史的意義の究明の中の,(3)高野山谷上院の陀羅尼講の勘録状との比較についても検討する予定である。
|
Causes of Carryover |
英文翻訳を予定していた部分について英文校正に変更した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料収集と英文校正に使用する予定である。
|