2014 Fiscal Year Research-status Report
日伯間の資本移動を活用した帰還移民者のキャリアの接続の研究
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26590094
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
丹野 清人 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90347253)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ブラジル人 / 帰還移民 / デカセギ / 日系人 / 外国人労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本に滞在するブラジル人は、1990年の入管法改正で日系3世まで就労可能になって以後一貫して増え続けていた。2008年にリーマンショックが起きると、日本政府は失業した日系人労働者とその扶養家族に国費で帰国費用を用意し、帰国を支援した。だが、この国による日系人の帰国支援事業も、その利用者の8割以上をブラジル人が占め、他の日系人の出身国出身者はあまり利用しなかった。アベノミクスが始まって以降も、ブラジル人の減少には歯止めがかからず、他のラテンアメリカ諸国出身者の滞日人口が安定しているのと比べると、世界同時不況の原因だけにブラジル人の減少要因を求めることはできない。 この原因を探っていくと、日本が世界同時不況に喘いでいた時期のブラジルの目覚ましい経済発展が、日本への出稼ぎの意味を大きく変えてしまったということに辿り着いた。ブラジルでは2008年に300Reaisの最低賃金が2015年には788.06Reaisにまで上昇している。日本が最低賃金を50円上げるかどうかで大きな議論をしていたときに、ブラジルではそれを2倍以上に引き上げていたのだ。この最低賃金が倍以上になった本国経済は、必然的に国内の人件費の高騰、物価の上昇、不動産価格の高騰を引き起こしており、長い間賃金水準がかわっていない日本で、これまでだったらブラジルから見てましな賃金がもらえていたという状況がまったく一変してしまったのである。帰国を考えていたものたちにとって、日本での就労をし続ける意味がなくなってしまったのだ。このような環境の変化が、帰国志向を持っていた人びとの帰国を促し、ブラジル以外のラテンアメリカ諸国ではブラジルのような経済環境の好転が見えてこないため、ブラジル人にのみ滞日人口の急速な減少が発生したと思われる。こうした条件のもと、帰国した人びとが日本就労の経験を一つの資源としてブラジルに復帰する可能性を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)ブラジルに進出し現地法人の工場を持っている日本企業に行き、インタビュー調査を重ねており、日本企業のブラジルでの採用指針をおおむね把握できた。 2)急速なブラジルの経済成長は、日系企業でも経験者の中途採用を増加させており、この中途採用ではブラジルのヘッドハンティング会社が用いられる。このブラジルでのヘッドハンティングを行っている会社にもインタビューを重ねており、どのような日本での経験がブラジルでの日系企業への就職に有利なものとなっているのかの把握ができた。 3)日本政府の帰国支援事業を通じて帰国したが、なかなかブラジルでうまく就職できていない者たちへのインタビューを重ねており、これらを通じてブラジルでは評価されない日本就労が何なのかの把握ができている。 以上のことより、本研究はおおむね順調に進展しており、当初の予定通りのスピードで研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果として、進出した日系企業がデカセギ帰りの者をどのように見ているのか、日本就労期間中にどのような経験をしていると帰国後の就職に繋がっているのかということについては一定程度の資料を集めることができた。今後は、1)ブラジルの企業がデカセギ帰国者をどのように見ているのか、2)デカセギ帰国者で就職していない者たちが、ブラジルでの職にアクセスするためにどのような回路を通じてそれを試みているのか。この2点に絞って残り一年となった研究を進める。 とくに2)のデカセギ帰国者で就職活動を行っている者が用いている職への回路については、これをビジネスとして行っているエージェントによる活動、現地のNPOがボランティア的に行っている活動に可能な限りの資源を投入して明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は、当初、現地調査を2回行う予定であった。しかし、2回目の調査を行おうと考えていた時期に、メキシコのラテンアメリカ・アジアアフリカ学会より、2014年は伊達政宗の命を受けてローマまで行った支倉常長のメキシコ訪問400周年を記念したシンポジウムでキーノートスピーチをしてもらいたいと依頼され、”Japanese Immigration Policy under an Aging Society: Missionaries in the Medieval Times to Modern-day Foreign Labores-Are They any Changes?"を講演することになった。そのため、調査回数減らすことになってしまい、使用額が予定より少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
夏休み期間中の調査をサンパウロ州内のみで行うのではなく、アマゾン川中流マナウス市の工業団地も調査対象として調査活動を行うことで、次年度の調査に関する費用は繰越額を含めて確実に活用することができる。
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