2014 Fiscal Year Research-status Report
ローカルな雇用創出の可能性―ドイツにおける認可自治体モデルの事例―
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26590108
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
武田 公子 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (80212025)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ドイツ / ハルツ改革 / 自治体財政 / 認可自治体モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
労働市場政策は従来一般に中央政府レベルの役割と考えられてきた。しかし労働市場において不利な条件を抱え、それゆえに長期失業に陥るリスクの高い人々への支援は、社会包摂的な手法とスキルを以て行われる必要があるため、地方政府の役割にも注目する必要がある。本研究は、ドイツにおける長期失業者の社会生活・職業生活への統合施策である求職者基礎保障(SGBII)の実施主体をめぐる、連邦レベルと基礎自治体の間の事務・権限配分関係および費用負担配分関係を検討することを目的としている。すなわち、自治体と雇用エージェンシー(AA)が共同設立する「協同機関」(gE)と、認可自治体が単独でこの業務を実施する場合との二つの実施主体モデルである。本研究はこの二つのモデルをめぐる制度設計のあり方とそれをめぐる議論、両モデルのパフォーマンスの相違を検討するものである。2014年度は以下の三点で調査研究を進めた。 第一に、連邦が公開する詳細な統計を用いて両モデルの比較を行った。その結果、認可自治体モデルにおいては斡旋阻害要因を持つ長期失業者に対する支援措置を相対的に多く活用していることが明らかになった。 第二に、資料・文献調査を通じて先行研究や政策動向の分析を行った。ドイツ国内のみならず、特にEU圏内においてはドイツと同様の政府間行財政関係がひとつの焦点となっていることが明らかになった。 第三に、現地調査として、認可自治体モデルを推進しているドイツ郡会議、認可自治体とgEとの比較研究を行う研究者と意見交換を行ったほか、複数のジョブセンターでのインタビューを行った。斡旋阻害要因をもつ長期失業者の自立支援施策の優位性が徐々に自治体の間に浸透してきている状況が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、SGBIIにおける「認可自治体モデル」に着目し、ローカルな雇用創出の可能性と課題を明らかにすることにある。2014年度の研究を通じて、この目的は以下のように達成されている。 第一に、資料文献研究を通じて、基礎自治体レベルによる労働市場政策が、ドイツに限らず複数の欧州諸国においても同時期に制度化されてきていることが明らかになった。例えばオランダやデンマーク等でもローカルなレベルでのジョブセンターが設置されている。「アクティベーション」と呼ばれる政策分野が、マクロレベルの労働市場政策とミクロな対人支援との境界領域にあって、中央政府と基礎自治体との間で揺れ動くという問題が普遍的なテーマであることが裏付けられた。 また第二に、2014年10月に連邦憲法裁判所が、認可自治体数の上限設定が違憲であるとの判決を下したことを背景に、今後認可自治体の更なる拡大が予想される事態となったことも判明した。申請時の認識では、認可モデルかgEかをめぐる自治体の選択は、2012年をもって一段落したものと捉えていたが、その後出されたこの判決により、今後認可自治体の数はさらに拡大する可能性が出てきた。加えて、連邦政府による認可自治体への監査は違憲であるとの判断も含まれており、SGBIIにおいてドイツ連邦制原理の貫徹が図られたと見て取ることができる。 第三に、現地明らかになったこととして、gEをも含むジョブセンターに対して、一定の予算枠のなかである程度の運用の自由度を認める動きが垣間見られた。その結果としてgEにおいても地域的なニーズに則した弾力的な制度運用の余地が生じてきており、今後この点をも含めてジョブセンターに関する現地調査をさらに進める必要があると考えられる。 以上のように、「挑戦的萌芽的」研究として申請した本研究について、着目の妥当性が裏付けられたといえ、研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツの求職者基礎保障制度の動向については順調に調査・研究が進んでいるが、申請時に計画していた比較対象としての日本の生活保護ないしパーソナルサポートに関しては調査の見通しが立っていない。というのも、2015年4月より生活困窮者自立支援法が施行されたばかりであり、この制度がドイツの基礎保障制度と比較しうるものであるかを検討する材料がまだ出揃っていないためである。また、生活困窮者自立支援法の実施状況を調査研究するとしても、単独で行う研究としては作業量が過大であり、十分な成果を挙げることは困難視される。 従って、2015年度以降の調査研究は、当面ドイツの求職者基礎保障のさらなる追跡に焦点化させ、日本の事例については概略的な政策動向把握にとどめるのが妥当と考える。とはいえ、ドイツ求職者基礎保障の事例が日本にどのような示唆をもたらすかと観点自体は引き続き維持していきたい。
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Causes of Carryover |
研究に必要な旅費や図書資料・消耗品を購入した後の残額であり、不要な物品を購入して予算を消化するより翌年度に繰り越して有効に使用する方が有意義と考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度における旅費、物品費、謝金等に適宜充当する予定である。
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