2015 Fiscal Year Research-status Report
広汎性発達障害児の「独特な言語」と個人的経験による限定的な文脈の関係の検討
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26590151
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
郷式 徹 龍谷大学, 文学部, 教授 (40332689)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 独特な言語使用 / メディア接触の影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
軽度の発達の遅れ(DQ=80)を伴う自閉スペクトラム症の男児(平成28年3月31日時点で7歳5か月)を対象に2014年度に引き続き、2か月に1基程度1回30分程度の自然観察を行い、その様子をウェアラブルビデオカメラで記録した。また、随時、発言をノートに記録した。 言語使用に関しては、会話が続かない場合もしばしばみられるものの、家族内では相当に改善されてきている。そのため、アニメやゲームのキャラクターになりきっての一人でのごっこ遊びが頻繁にみられる一方で、1歳年上の次兄とのごっこ遊びでは設定などについて調整に応じることのできる場面が若干みられるようになってきた。ただし、過去の場面を思い出した上での発話が時折あるが、どのような場面であったのかを会話の相手が思い出せず会話が成立しないことがある。 また、対象児は2015年4月に小学校に入学した。数の理解や足し算・引き算は当初より学習についていけたが、ひらがなの読み書きは若干の困難があった。ただし、3月現在では読みに関しては相当に改善された。ただし、学校ではそれほどコミュニケーションが取れていないようである。担当教員との会話も質問に対する回答という形では成り立っているが、日常的な会話については不十分なようである。これは担当教員が本児の現在興味を持っているアニメやゲームを知らないことなどの影響が大きいと思われる。なぜならば、月に1回程度通っている「ことばの教室」の担当者(本児の興味のあるアニメやゲームについて予習して訓練に臨んでいる)とは相対的に良好な会話が成立しているからである。以上のことから、家庭で把握している会話能力や言語・概念に関する学習の力に比べて、学校ではそうした能力が低く見積もられており、本児に対する関わりが発達年齢よりも低いものになっているようである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
対象児の発話には過去の場面を思い出した上でのものが時折ある―こうした場面の記録、検討は本研究の中心的課題である―が、そうした発話についてはどのような場面が想起されているのかがわからなければ、整理・編集が不可能である。どのような場面を想起しているのかについては、特に対象児の母親による確認が必要で単純な整理・編集作業として外注することが困難であり、時間がかかっている。この点については、時間はかかるものの現状通り対象児の母親に確認してもらいながら、整理・編集を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26・27年度に引き続き対象児の家庭内での発話を映像記録および日誌記録の形式でデータ収集を図る。また、学校における担当教師、他の児童との会話の状況について確認していきたい。 上記の記録の収集とともに、これまでの映像記録および日誌記録の整理・編集の作業を行っていきたい。この作業は単純な文字への起こし作業では意味がなく、発話がなされた背景(何を想起しながら発言しているのか、発話の際に興味のあったゲームやアニメは何か、など)に基づいた記述が必要であるため、対象児の母親に確認してもらいながら進めていきたい。
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Causes of Carryover |
収集した映像データの整理・編集に関して大学院生等をアルバイトして雇用し、任せる予定であった。しかし、対象児に軽度の構音障害があり、対象児をよく知る人間でないと発話を聞き取りにくいこと、また、対象児の生活をよく知るものでないと発話内容の解釈が難しい場面が多かったことから、データの整理・編集を外注することができず、人件費・謝金の使用が予定ほど進まなかった。また、データの整理・編集を外注することができなかったために研究成果として発表することができず、旅費の使用が進まなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
観察対象の児童に発話が流暢になってきており、構音障害も相当改善している。他の子ども(対象児の次兄)と遊んでいる場面や宿題などの課題場面に関しては対象児のことを十分に知らない場合でも、状況および発話の記述が可能だと思われることから、大学院生等をアルバイトして雇用し、映像データの整理・編集を行っていきたい。そして、データの整理・編集作業に伴い、映像編集用のコンピュータソフト、記録媒体等が必要になる予定である。 また、本年度はこれまでに整理・編集の済んだデータをもとに、7月に横浜で開催される国際心理学会の大会、来年3月開催予定の日本発達心理学会の大会では発表を行う予定であり、その旅費を使用したい。
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