2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26590197
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
樋浦 郷子 帝京大学, 理工学部, 講師 (30631882)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 御真影 / 皇国臣民ノ誓詞 / 奉安殿 / 学校儀式 / 教育史 / 朝鮮史 / 近代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請の段階で本研究の概要を次のように書いた。「本研究は、近代日本の教育、とりわけ植民地期朝鮮における天皇崇敬教育と学校儀礼について「誓い」「表象」「身体」をキーワードとして据えつつ、多面的に分析する。こうした分析視角を用いることによって、「皇民化運動」「同化教育」といった従来の研究枠組では捉えきれなかった問題群を掘り起こすことが可能になる。本研究は、今日的ないわば狭義の日韓・日朝の相互理解の深化に資するばかりでなく、東アジアに共有されうる教育課題の存在にも、歴史的観点から迫ることが期待できる」。 これに対し、実施1年目である平成26年度には、大まかには次のように研究を行った。第一に、海外のシンポジウムを含め3回の学会・研究会での研究発表である。第二に、2本の論文公刊と1本の投稿(2015年4月現在印刷中)、第三に、韓国と台湾でのフィールド調査である。これらを通じて、当初の計画どおり、「誓い」「表象」「身体」を研究のキーワードに据えた研究において次のように一定の成果を得た。まず、これらのキーワードのすべてを包括する歴史事象として、植民地期朝鮮で実施された「皇国臣民ノ誓詞」の実態研究である。このなかで、「皇国臣民ノ誓詞」はもともと日本の修身教育で常套的に実施されていた斉誦・暗唱という教育方法に源流があること、低頭や最敬礼など、身体規律の「教育」を伴った教育勅語と同様に、「皇国臣民ノ誓詞」にも身体規律が定められていたこと、児童生徒は斉誦の文言を巧みに言い換えるなどの「抵抗」を行ったことを明らかにできた。 次に、「表象」「身体」に関わるものとして、「御真影」を収蔵するための奉安殿の研究を行った。とくに、先行研究等ではほとんど明らかにされることのなかった、「植民地の学校において奉安殿はどこに位置していたのか」という問題について、学校配置図を探索し明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)研究発表:次のように研究発表(単独)を行った。①「植民地朝鮮における「御真影」の体系」(2014年5月、「天皇制と社会」研究班研究会、京都大学人文科学研究所)、②「学校儀式に見る植民地の教育―現代日本の「国家神道」論争とのかかわりから―」(2015年8月、大韓民国、国際シンポジウム「宗教から見る帝国日本と植民地」、翰林大学校【招聘】)、③「植民地期朝鮮の天皇崇敬教育―中等教育機関を中心として―」(2014年10月、教育史学会第58回大会、日本大学文理学部)。 (2)論文としての公刊:上の研究発表内容をまとめ、それぞれ以下のように論文として投稿し、1本はすでに公刊され、もう1本は現在印刷中である。①と③→「学校儀式に見る植民地の教育―現代日本の「国家神道」論争とのかかわりから」(韓国語による執筆)、『翰林日本学』第25輯(翰林大学校日本学研究所)、2014年12月。②→「植民地期朝鮮の中等教育機関における天皇崇敬教育―「御真影」・奉安殿・誓詞―」(『教育史フォーラム』第10号、教育史フォーラム・京都、2015年5月予定)。 (3)達成度:上記(1)と(2)、さらに台湾での奉安殿や校内神社に関わるフィールド調査を計画通りに実施できた。現段階では、順調な達成に至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通じて、次のようなあらたな課題が浮かび上がった。第一に、天皇崇敬教育の形態や、そこに求められる理念や期待感は、初等教育段階と中等教育段階とで異なる、ということである。これに関しては、学校種別ごとにいっそう注意深く分析を行う必要がある。 第二に、申請者はこれまで、主に1930年代から40年代を対象として研究を進めてきたが、朝鮮における植民地教育の全体像をいっそう明らかにするためには、1910年代、20年代の研究を重ねる必要がある。そこで具体的には、「大正天皇皇后写真」の学校への配布状況調査など、大正期の天皇制教育の様態に接近しようと考えている。 具体的には次のように研究発表、調査等を進める予定である。①フィールド調査:韓国と台湾での史料収集を中心とする。②研究発表:教育史学会または朝鮮史研究会例会での研究発表を目指す。③論文投稿:年度内に1本の投稿を目指して計画を進める。
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Causes of Carryover |
3月に台湾にフィールド調査に行き、その際全額を科研費で支払う残額がなかったため、国内旅費のみ科研費申請を行った。そのため、最後を0円に調整することが困難であり、次年度に持ち越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、韓国でのフィールド調査を1-2回、学会発表を1回、国内調査を3回程度見込んでいる。とくに、中等教育機関における教育実態を検討する計画で、具体的には勤労動員と軍事教練との実態について詳細な分析と考察を目指している。
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Remarks |
(1)は樋浦郷子個人のホームページで、海外研究者向けに研究の英語要旨を公開するものである。
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