2015 Fiscal Year Research-status Report
高校教育改革における〈多元的生成モデル〉の構築に関する臨床的研究
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26590200
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菊地 栄治 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10211872)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高校教育改革 / 一元的操作モデル / 多元的生成モデル / 相互的主体変容 / 教師の自律性 / 多忙化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、主として前年度末に実施した全国高校校長・教員調査データの分析および学会報告等を通しての情報発信を行った。分析で得られた知見は、以下の通りである。 1.2004-15年の間に、授業理解度や学力の形成という点で教員は大きな手ごたえを感じている。加えて、学力形成の前提として「授業規律」についても生徒の中で大きく前進してきたと自己評価する。教員同士の関係性も、組織構造の一元化等を通して小・中学校に近い特徴を帯びてきている。 2.しかし、これらの変化は教員の自律性の衰退と軌を一にしている。学校や教員の自律性そのものから距離をとる傾向が一貫して強まっている(自律性からの退却)。専門職としての正統性が揺るがされ、消費社会の中に教員が呑み込まれているようにさえ見える。 3.2.と絡んで、教員の多忙化が一層進んできている。とくに極端に勤務時間の長い層の割合が増加している。教員の職務範囲は依然として幅広く、とりわけ若手教員を中心に部活動に割く時間の縮減傾向が見られない。多忙化の中で生徒とかかわる深さと「余白」が減衰している。したがって、生徒とのかかわりは次第に浅くなっていく。 4.優先的に育成すべき力については、「受験学力」と「コミュニケーション・スキル」が増加し、対照的に、「他者とともに社会を創っていく力」は大幅に率を落としている。あわせて、「総合的な学習の時間」をはじめ、「社会」のリアリティと出会う機会が一貫して減少している。テーマは、生き方や自分探しなど個人化されたテーマに収斂する傾向がある。加えて、その成果も自己成長の物語に回収されていくのである。想定される社会は「厳しい社会」であり、その中でしたたかに生き残る個人が前提とされている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会報告の内容が複数のマスメディアに取り上げられたため調査結果に対する関心が高まったこともあり、統計的分析と社会的発信の両方の作業にかなりの時間を費やさざるを得ない状況となった。予想外に労力はかかったものの、きわめて有意義な研究成果を得ることができ、最終年度の分析・考察の深化も期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度として、全国高校校長・教員調査のデータ分析をさらに進展させ、かつ、具体的な学校づくりへのかかわりを拡大していくことに重心を移していきたい。その際に、新しい教育社会づくりへの理論構築に向けた作業も併せて進めていくことができれば幸いである。
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Causes of Carryover |
質問紙調査データの質的チェックを専門的判断のもとに行うため、データの整理・分析作業を自分自身の手で行わざるを得なかった。単独実施の研究プロジェクトであったため、事例調査データの解析と対象事例の拡大がいくらか滞ることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度必ずしも充分には実施できなかった実践事例調査を中心に、全国調査データ分析を補完しつつ、新たなつながりを構築すべく質的研究を進展させるための作業に充てることとしたい。
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