2014 Fiscal Year Research-status Report
ニューヨーク市における教員評価制度の構築に向けた教員組合の取り組み
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26590218
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Research Institution | Toyo Gakuen University |
Principal Investigator |
末藤 美津子 東洋学園大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (10460304)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ニューヨーク市 / 教員評価 / 教員組合 / 授業観察 / テスト得点 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、全米最大の学区であるニューヨーク市における新しい教員評価制度の成立とその後の展開について、行政当局の動きと教員組合の動きの双方から検討していくことである。また、ニューヨーク市の動向は、ニューヨーク州の動向とも密接に連動していることから、教員評価制度をめぐるニューヨーク州の行政当局の動きと教員組合の動きにも目を向けていくことを課題としている。 本年度は、2013年9月の新学期からニューヨーク市に導入された、「アドバンス(Advance)」と呼ばれる新たな教員評価制度の分析・検討を行った。「アドバンス」は、授業観察によって教員の教育実践の力量を測る部分(60%)と、生徒の学習成果に基づいて教員の力量を測る部分(40%)からなり、まだ未整備の部分も残されているが、その概要を明らかにすることができた。 また、2014年1月には、3期12年にわたってニューヨーク市長を務めたマイケル・ブルームバーグ(Michael R. Bloomberg)に代わって、ビル・デブラシオ(Bill de Blasio)が市長となり、ニューヨーク市の教員組合である教員統一連盟(United Federation of Teachers: UFT)との関係も変わりつつあることから、両者の新たな関係性を分析した。 加えて2014年11月には、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジを訪問し、ニューヨーク市の公立学校における教員評価をめぐる最新動向について、教員ならびに教育関係者にインタビュー調査を実施するとともに、資料収集を行った。インタビューを通して、「アドバンス」の問題点や課題について有益な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ニューヨーク市において2013-14年度に初めて実施された「アドバンス」の概要を分析することができた。ダニエルソン・フレームワークに基づく授業観察による評価の部分、ならびに、ニューヨーク州の標準テストの結果やニューヨーク市パフォーマンス評価の結果などが複合的に用いられていく生徒の学習成果に基づく評価の部分について、明らかにすることができた。また、デブラシオ新市長とUFTとの友好的な関係や、「アドバンス」の改善を目指した両者の合意形成も明らかにすることができた。加えて、アメリカの教育学研究者の間で「アドバンス」がどのように評価されているのかも知ることができた。 教員組合からもまた研究者の間からも、「アドバンス」の問題点や課題が指摘されてきている。たとえば、評価項目が不明確であったり、評価方法が煩雑であったりすることが指摘されたり、評価者の専門性が問われたり、評価者の育成が大きな課題とされたりしている。今後の検討課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年9月からは、2013年版の「アドバンス」に若干の修正が加えられたものが実施されている。そこでまず、この改訂版の「アドバンス」の概要を明らかにしたい。 一方、2013-14年度に初めて実施された「アドバンス」の結果が2014年12月に公表され、ニューヨーク市の教員のおよそ9割は4段階評価の上位二つの評価を得たことから、さまざまな議論を呼んでいる。アンドリュー・コモ(Andrew M. Cuomo)ニューヨーク州知事は教員評価制度の厳密化を求めてきており、それに対して、ニューヨーク州の教員組合であるニューヨーク州教員連盟(New York State United Teachers: NYSUT)とUFTは反発を強めている。こうしたニューヨーク州知事と教員組合との関係にも目を向けていきたい。 平成28年度も、ニューヨーク市への現地調査を予定している。コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジへの訪問ならびに教員組合へのインタビューも計画している。現在進行中の「アドバンス」に関する、教員組合の率直な感想や要望を聞きだしてみたい。
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Causes of Carryover |
物品費は92,288円、旅費は130,048円、その他の費目は17,000円の残金が生じた。これらの残金については、所属機関からの研究費を充当することができたために生じた。人件費・謝金については、本年度の調査・研究においては支払いが発生しなかったため、150,000円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2013年9月にニューヨーク市に導入された教員評価制度の「アドバンス」は、2015年9月には3年目を迎えることから、その課題や問題点をめぐる議論も活発化してきている。教員評価制度を問い直そうとする動きは、教育行政の側からも、教員組合の側からも、さらには教育学研究者や市民運動家などからも試みられているので、そうした動きについて調査・研究を進めていきたい。そのためには、現地調査を実施し、最新の情報を収集することと、関連する文献・資料の収集が不可欠であり、そのための経費が必要である。また、調査・研究の成果を逐次、関連学会で発表するためにも、経費を使用する予定である。
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