2015 Fiscal Year Research-status Report
一次元応力を用いるナノ(継ぎ目のない)傾斜屈折率光学素子の開発
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26600027
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
伊原 博隆 熊本大学, 大学院自然科学研究科(工), 教授 (10151648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐川 尚 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (20225832)
緒方 智成 熊本大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90332866)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 屈折率 / 光学フィルム / 重力 / ヘテロポリ酸 / チタニア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、傾斜機能を有する光学材料の作製を目的としている。本年度は、前年度に透明性の高い高屈折率のポリマー・無機酸化物複合体の作製を目標として、3つのアプローチにより研究を進めた。 (1)極性ポリマーからの複合体の作製~本年度は有機ポリマーとして新たに、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン、デキストランに幅を広げて無機酸化物との複合化を調査した。また、無機成分としては、タングステン酸(WO3)に加え、3種類のチタニアナノ粒子を比較対象に用いた。結果を要約すると、けん化率95%以上のPVAにおいて、透明性の高いWO3との複合化が可能となり、現時点で屈折率1.7までの透明フィルムの作製が可能となった。一方、チタニアナノ粒子では、平均粒径20nmの単分散溶液においてのみ高濃度複合化が可能となり、WO3よりもやや高い屈折率の複合体の作製が可能となった。 (2)中極性モノマーからの熱重合による作製~メチルメタクリレート(MMA)およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を中心にWO3との複合化を検討した。結果として、タングステン酸の含有率が70~80wt%程度の複合体の作製が可能となったが、ラジカル開始剤から発生するガスの除去プロセスに課題が残った。 (3)中極性モノマーからの光重合による作製~(3)の課題を解決し、かつ工業プロセス上有利となる光重合法を検討した。当初は、WO3と相溶性の高いMMAおよびHEMAを中心に検討したが、WO3の含有量の増加に伴い、光照射による着色の問題が顕著になったため、着色抑制のための検討を実施した。その結果、モノマー中に微量のジメチルホルムアミドを添加することによってある程度着色が抑制できること、また原料モノマーを工夫することにより(特許出願)、着色しない光重合系が構築できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、有機成分として極性ポリマーならびに新たな中極性モノマーを模索しながら、透明・高屈折ポリマー複合材料の開発を目指した。この背景には、熱重合系では開始剤からのガスの発生の問題、光重合系では着色の問題が浮上してきたことがある。結果として、熱重合系においては、最適の開始剤の選択には至っていないが、光重合系では、当初目標に掲げていなかった、ほぼ着色がない新たなモノマー系の探索に至り、また熱処理によって重合率の改善も可能となり、基礎研究としての最重要課題の解決に至った。光重合法は実用上の生産プロセスでの汎用性が高いため、同法の確立はきわめて意義深い。次年度では機能傾斜が重要な研究目標となるが、この目標の基盤となる研究成果が着々と蓄積できているため、本研究は概ね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の基盤技術となる透明複合材料について、複合化および光重合に適した新たなモノマー系が探索できたことは極めて意義深い。次年度は、このモノマー系での基礎研究を継続して行うことが重要と考える。 その一方で、高重力場を利用して機能傾斜化を目指すことが本課題の研究目標の一つであったが、今回の熊本地震により、超高速遠心機を利用する強い重力場の発生にはリスクがあるため、当面は汎用性遠心機を利用した機能傾斜化を図りたい。幸い、前年度には、有機成分とタングステン酸の相溶性を調節することにより、1G条件下で二層分離系が発生する条件を確認しているので、次年度は同条件を展開して、当初目標の機能傾斜材料の作製を目指したい。
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Causes of Carryover |
次年度に、学外での測定(国内)ならびに国際会議での発表に必要な経費が発生すると判断し、また当初予定していた物品(器具、試薬等)の購入を別途予算で補ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学外(京都大学、民間企業)での測定ならびに国際会議での発表等のための旅費として補填する。
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