2014 Fiscal Year Research-status Report
光誘起表面振動による揮発性大容量ホログラフィックランダムアクセスメモリの検討
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26600070
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
茨田 大輔 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80400711)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 揮発性ホログラム / 光ランダムアクセスメモリ / 光誘起表面変形 / 空間光変調器 / アゾベンゼン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、光を照射している間だけ生じるような実時間回折格子を生成させるサンプル作製を行った。サンプル構成は、ガラス基板に光エネルギーを運動エネルギーに変換させる吸収層、運動エネルギーによって表面変形させる反射層からなる。まず、吸収層として汎用の黒色アクリルインクを用い、ガラス基板上にスピンコーティングによって成膜した。その上に反射層としてクロムをスパッタリングによって成膜した。このサンプルの吸収層側から中心波長780nm、パルス幅100fs以下のチタンサファイアレーザーパルスを繰り返し周波数1kHzで照射した。光吸収によって発生した音波の振動及び吸収層自身の熱変形により、反射層を変形させた。反射層側からは、波長633nmのHe-Neレーザー光を照射し、その反射光の位相変化を干渉計測で検出することによって、反射層の表面変形を観察した。熱変形は蓄積するため、大きな干渉縞の変化として現れたが、振動による変化は外乱振動に埋もれてしまい、レーザーパルス照射による振動の効果を識別することが難しかった。振動の周波数解析を行ったところ、パルスの繰り返し周波数と同じ1kHzの振動を確認した。 次に、空間光変調器を用いてレーザーパルスを縞パターンに変調してサンプルに照射した。反射層が縞パターン通りに変形すれば、回折格子として機能するが、He-Neレーザー光の回折光は観察されなかった。熱変形による大きな表面変位は観察されたので、熱変形では縞パターンを転写できなかったことが考えられる。周波数フィルタリングによって1kHz周辺で振動した成分を抽出したところ、縞パターンが検出されたが、元の縞パターンとは一致しなかった。これは、反射層全体に複雑に振動が伝搬したためであると考えられる。 そこで、吸収層として熱変形ではなく光エネルギーを直接的に運動エネルギーに変える性質をもつアゾベンゼン薄膜を用いることを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
サンプルの作製を行い、反射層のレーザーパルス照射による表面変形は確認したが、縞パターンを照射したときに回折格子が形成されていることは、回折光からは確認されなかった。しかしながら、パルスの繰り返し周波数である1kHzごとに反射層表面に振動が生じていることは確認している。この振動分布は、照射したレーザーパルスの縞パターンとの相関がとれておらず、反射層内で複雑に振動が伝搬した結果による可能性がある。よって、フェムト秒パルスのような急激な光吸収による振動ではなく、吸収層としてアゾベンゼン分子を用いた光ー運動エネルギー変換を利用して吸収層の表面を変形させることを試みた。 反射層を用いない場合、532nmのCWレーザー光を用いて回折格子が形成されることは確認したが、このサンプルに反射層となるアルミニウム薄膜を堆積させた場合、回折格子は形成されなくなった。これは、アルミニウム薄膜の張力によって表面変形が抑制されたためと考えられる。 以上により、吸収層と反射層をもつ構造による回折格子は確認されず、平成26年度に予定されていた、回折格子の回折効率の周期依存性を調べることができなかった。しかし、1kHzのレーザーパルス照射実験において、表面変形の時間変化を干渉計測によって計測し、二次元パターンとしては高速な1kHzの微弱な表面変形パターンを初めて検出することに成功したのは意義あることと思われる。これは、本研究の目的である揮発性ランダムアクセスメモリを再生する際に再生信号が微弱であっても、本研究の手法を使えば検出可能であることを意味する。 また、CW光を用いた実験においては、まだこの検出方法を用いておらず、実際には微弱な回折光が発生している可能性もある。さらに、反射層の表面張力が働かないようにする方法も検討しており、平成27年度は、回折光の確認とその強度を強くする方法を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度では、吸収層と反射層をもつサンプル構造において、レーザー光照射による回折格子の形成は確認されなかった。しかし、吸収層としてアゾベンゼン薄膜を用いた場合には反射層がなければ回折格子が形成されていることが確認されており、平成27年度では、この回折格子の形成が抑制されないような反射層の成膜方法を中心に研究を進める。 回折格子形成を抑制する主要因として反射層の張力が考えられるため、その張力を小さくする方法を検討する。一つは反射層の膜厚を可能な限り薄くすることが考えられる。この場合、膜厚を薄くすればするほど反射率が小さくなるので、十分な反射率が得られない可能性がある。そこで、もう一つの方法として反射層に格子状にすることを考える。このとき、一つの格子のサイズは100nm程度、格子間の幅は数十nm程度とする。この場合、格子内では変形できなくても、格子間に段差を生じさせることは可能であると考えられる。 格子状反射層をもつサンプルは、電子線リソグラフィを用いて行う。アゾベンゼン薄膜の上に電子線レジストをスピンコーティングし、電子線を格子パターンに応じて照射する。現像処理によって電子線を照射した部分のレジストを溶解させ、その上に反射層をコーティングする。その後レジスト剥離液に浸すことにより、レジストの上にある反射層も剥離され、レジストがない部分の反射層のみが残る。以上により、格子状の反射層を形成させる。 格子サイズは小さいほど表面変形が抑制されないと考えられるが、小さすぎると反射率の低下につながるので、さまざまな格子サイズをもつサンプルを作製し、回折光強度が最大となる格子サイズを調査する。 また、平成26年度で提案した検出方法を用いると微弱な回折光をも検出可能なため、回折光が生じるために必要な最低限の照射時間についても調査を行う。
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