2014 Fiscal Year Research-status Report
フェロアクティブイオンの電子状態を立脚点とする相転移論構築のための構造物性研究
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26600086
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
黒岩 芳弘 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40225280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 智志 山梨大学, 総合研究部, 教授 (60240545)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 構造・機能材料 / 誘電体物性 / X線 / 超精密計測 / 物性実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
強誘電体の相転移温度を,X線回折実験で得られる結晶構造に関する情報だけから純粋に類推する指標を見出すために,放射光粉末回折実験により,ペロブスカイト型酸化物を中心に様々なセラミックス材料の「価電子」の空間分布を全電子密度分布から抽出して,博物学的に可視化する研究を開始した.構造歪みを誘起すると考えられているフェロアクティブイオンの価電子密度分布に注目して,相転移温度を支配している化学結合の特徴を見出し,電子論の観点から誘電体の相転移を議論する新しい相転移論構築のための実験研究基盤を確立することが研究の目的である. 本研究では,研究代表者の黒岩(広島大学)と研究分担者の和田(山梨大学)がお互いの得意分野で協力しながら研究を推進した.黒岩は強誘電体の構造物性研究の専門家であり,高エネルギー放射光粉末回折実験によりペロブスカイト型誘電体の電子密度分布を可視化する技術の開発を行ってきた.和田は,強誘電体セラミックス材料の合成およびその電気特性評価に関する専門家であり,この2人の力の相乗効果により,極めて高い精度で価電子密度分布を実験的に可視化できると期待した. 今年度は,実験試料として,和田が山梨大学において,様々なペロブスカイト型セラミックス試料の合成を行った.用意できた試料から順に,黒岩が広島大学において構造評価を行い,放射光実験用の試料を準備した.このとき,粉末試料を効率よく評価し,良質の試料を選別するために,主要な物品として,助成金でX線発生装置を購入し,SPring-8での実験に最適な試料の準備ができる環境を整えた.黒岩と和田は協同でSPring-8において,高エネルギー放射光を用いた粉末X線回折実験を行い,得られた回折パターンを黒岩が最大エントロピー法を用いてデータ解析し,価電子密度分布を抽出し可視化した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化学式がABO3と書ける古典的なペロブスカイト型強誘電体に対して,フェロアクティブなBサイトイオンにまず注目し,プロトタイプ構造における相対的な価電子密度分布および相転移温度近傍で結合状態が変化する様子を調べた.その結果,予想していた通り,B-O原子間の共有結合性の高いものほど相転移温度が高いという直接証拠を得ることができた.一方,Pb,Bi, Snなどの孤立電子対をもつイオンがAサイトに配置した場合,A-O原子間に特別な共有結合が形成される場合が多いこと,さらに,このようなA-O間の共有結合の形成に伴い,これらのイオンのオフセンターリングが生じることもわかった.したがって,孤立電子対をもつイオンがAサイトに配置している場合は,相転移が大きく影響を受けるので,B-O間の共有結合性だけで相転移を議論できない場合があることも理解できた.以上の成果を国内外の学会で発表した.また,論文などの出版物にまとめて報告した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き,様々なペロブスカイト型セラミックスに対して価電子密度研究を行っていく.価電子密度解析の手法やペロブスカイトの第一原理電子構造計算の結果に関する情報を国際会議や国内学会で収集しながら,可能な限り早期の成果公表を目指す.一方,得られた知見を材料科学のグループと共有すれば,相転移の制御された機能性材料を明解な設計指針に基づき合成するという新しい開発経路が開拓できると期待する.この計測技術をペロブスカイト型セラミックスだけに特化せずに,半導体などの他の材料に応用していきたい.
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