2014 Fiscal Year Research-status Report
鉄酸化物薄膜を用いた完全磁性pn接合ダイオードの創製
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26600092
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 宗俊 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40432439)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 強磁性半導体 / パルスレーザー堆積法 / 酸化鉄半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、高スピン分極率を室温で示すp型酸化鉄薄膜の作製を目指して実験を推進した。まず、前年度までに得られたp型酸化鉄GeFe2O4において、非磁性イオンであるGe4+の一部を磁性イオンのMo4+で置換した薄膜をパルスレーザー堆積法(PLD法)を用いて作製した。不純物相(MoO3等)の析出を抑制し結晶性の高い薄膜が成長する作製条件(酸素圧力、基板温度、結晶成長速度等)を見出し、室温で強磁性を示す試料の作製に成功した。しかしながら、これらの試料は室温では異常ホール効果を示さず、スピン分極率は著しく低くなっていることが示唆され、その原因が試料中のキャリアの伝導経路であるスピネル型結晶構造のBサイトを占有するGe4+の存在にあることを突き止めた。一方、シリコン(Si)を添加した酸化鉄Fe2O3(ヘマタイト)の焼結体をターゲットとして用いてPLDによって製膜すると、結晶成長中にSiの脱酸効果によって、酸化鉄が著しく還元され、高品質なFeO(ウスタイト)の結晶薄膜が得られることを見出した。また、FeをMgで置換することにより、そのバンドギャップエネルギーを広範に(2.7-6.1eV)変化させることに成功している。このSi,Mg置換FeO薄膜の室温における電気伝導度は、アクセプタ元素を添加していない他のワイドギャップp型酸化物半導体と比較しても非常に大きな値となっており、この薄膜はホール注入型素子への応用に極めて有望であると考えられる。本研究ではさらに、n型強磁性半導体Co:ZnOとこのFeO薄膜を組み合わせて良好な整流特性を示すpn接合素子の作製にも成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸化鉄を含む強相関電子系酸化物においては、構成陽イオンの価数状態を変化させることにより、そのキャリアタイプを制御することができる。酸化鉄においては、Fe3+の状態が特に安定であるため、このようなp、n型試料の作り分けが困難であったが、本研究では酸化鉄薄膜中のシリコン(Si)含有量の制御によりFe2+/Fe3+イオン比を系統的に変化させキャリアタイプを自在に制御可能であることを見出した。また、p型酸化鉄薄膜におけるホール濃度とギャップ端での電子構造を制御しうる因子・製膜条件も見出している。これらの成果は、酸化鉄pn接合の重要な設計指針を与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、酸化鉄薄膜におけるイオン比Fe2+/Fe3+を著しく増大させることにより、p型伝導を実現している。しかしながら、これらの薄膜の最表面ではFe2+の一部が大気によって酸化してFe3+となり、n型伝導層が形成されていることが分かっている。今後はこの大気中での表面酸化を抑制するため、p型薄膜の蒸着後にキャップ層として酸化物絶縁体の極薄膜の堆積を試みる。また、p型酸化鉄におけるスピン伝導の実現も重要な課題となる。そこでp型層への磁性不純物の導入の効果を検証するとともに、室温強磁性層(Fe3O4, Fe等)とのヘテロ接合形成によるスピン注入の利用により、p型層でのホールの高スピン分極率の実現を目指す。
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Research Products
(23 results)