2014 Fiscal Year Research-status Report
3次元フォースマッピング法による生体分子の揺らぎ計測
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26600101
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 啓文 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283626)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 3次元フォースマッピング技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、これまでに開発されてきた周波数変調原子間力顕微鏡をベースとする3次元フォースマッピング技術、および光熱励振による定量的相互作用力計測技術(保存力と散逸力の分離による定量計測)を基にして、柔構造をもつ生体分子の分子イメージングを実現するとともに、生機能発現過程に強く関連する、生体分子の揺らぎの大きさと揺らぎに伴う緩和時間を求め、生体分子近傍の水和構造と分子の揺らぎの関係を明らかにすることを目指している。 3次元フォースマッピング法では、試料面上方の3次元空間上の各点でデータを取得するところから、測定に要する時間は長くなり、高分解能測定では装置の機械・熱ドリフトが問題となる。26年度の研究では、データ取得時間の短縮化のために、探針/試料の走査速度を向上するとともに、AFM制御帯域を拡大するなど装置を改善した。一方、FM-AFMにおいては、カンチレバー振動の周波数スペクトルに装置系の機械特性の影響が入ると、定量的な力測定が困難になることが知られている。このため、カンチレバーの励振には、光熱励振法などカンチレバー部分だけを局所的に励振する方法を用いて定量的相互作用力測定が可能なように改良した。また、高分解能計測を阻害する機械・熱ドリフトに対しては、装置に低熱膨張率の材料を使用することで熱・機械特性を改善し、さらには、装置を精密恒温槽内に設置することで、周囲環境温度を高精度で一定に維持することに成功した。 液中3次元フォースマッピング法の高度化に伴い、散逸計測も高速化することが必要不可欠となる。散逸計測は基本的にはカンチレバーの振動振幅の変化の検出であるが、振幅制御を行う自動利得制御器(AGC)の帯域を広くするよう改良した。また、散逸エネルギーの定量的な評価のために、散逸信号感度の周波数依存性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展している。本研究課題は、4つの研究サブテーマから構成されるが、26年度は、その中の3つのサブテーマの研究が密接に連携して進められており、生体分子の揺らぎ計測を確立するための具体的な実験が行われた。サブ研究テーマ「(1) 液中3次元フォースマッピング法の高度化」においては、探針/試料の走査速度を向上し、AFM制御帯域を拡大することで、3次元フォースマッピング法のデータ取得の高速化を図ることができた。さらには、光熱励振法の導入によって測定を定量化することに成功した。また、サブ研究テーマ「(2) 散逸計測法の高速化」では、振幅変化計測の時間応答を決めるAGC系の帯域を広くすることで散逸計測を高速化することができた。一方、サブ研究テーマ「(3) 生体分子周囲の水和構造可視化」においては、上記2テーマにおける装置の大幅な改善に伴って、さまざまな生体分子、タンパク質分子(バクテリオロドプシン、ストレプトアビジン、IgG抗体分子)やDNA分子上で、生体分子周囲に強く束縛され局在した水分子の構造(水和構造)を3次元/2次元フォースマッピング法によって安定に可視化することに成功した。以上、26年度のサブテーマ研究目標は達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
固液界面上に形成される特異な水分子密度分布、いわゆる局所水和構造は、3次元フォースマッピング法によって可視化できる。一方、マイカのような原子的平坦性を有する結晶表面上のフォースマッピングは容易に実行できるが、複雑な表面構造をもつ生体分子に対してフォースマッピングを行うためには、より精密な探針制御が必要となる。今後の研究では、探針制御のアルゴリズムを検討するとともに、探針駆動・制御部の周波数帯域および総合応答特性を改善し、複雑な表面構造上においても精度よく探針が追従することを可能とする。これら装置系の改善により、イオンチャネルタンパク質やDNA-タンパク質分子複合体周囲の水和構造を明らかにする。 また、外界刺激の受容や情報伝達・応答など本質的な生体機能を担っている、生体膜中の機能局在領域(ナノドメイン)とその流動性の関係が近年注目されていることから、今後の研究では、これまでの3次元フォースマッピング技術の高度化・定量化を基盤として、ナノドメイン、特に脂質(コレステロール)依存性の“ラフト”の流動性および揺らぎを、保存力および散逸力計測によって明らかにする。
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Causes of Carryover |
3次元フォースマッピング法の高度化開発において実験に用いるテスト試料として、当初はマイカ基板上のリン脂質二重膜を用いることを想定していたが、今年度の研究において、マイカ基板上にタンパク質(ストレプトアビジン)が2次元結晶を形成し、装置開発の際のテスト試料として十分に使えることが分かった。このため、リン脂質分子やコレステロール分子等、いくつかの試薬については、27年度に購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度に、リン脂質分子やコレステロール分子等の試薬を購入し、脂質(コレステロール)依存性の“ラフト”の流動性および揺らぎを、保存力および散逸力計測によって評価する。
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Research Products
(26 results)