2015 Fiscal Year Research-status Report
金属ナノワイヤを利用した量子トンネルによる水素の侵入・拡散現象の直接観測
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26600102
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
河江 達也 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30253503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲垣 祐次 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10335458)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トンネル効果 / 水素吸蔵・拡散 / 金属ナノコンタクト / ブレークジャンクション実験 / Vibrating Wire法 / パラジウム / バナジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
金属ワイヤの線径をバルクからナノサイズまで精密に制御できるブレークジャンクション実験を液体水素中などの低温環境で実施することで、量子トンネルによる水素の吸蔵・拡散過程の直接観測を行った。まずT~20Kで直径~7nmのナノワイヤを作製した後に液体水素を導入すると、微分伝導信号dI/dVは大きく変化する。ピュア金属で見られるシャープなピーク状の形状から山全体がブロードになる。さらにこの信号を微分したd2I/dV2は、水素導入前には伝導電子-フォノン散乱に起因してV =±20meV近傍にピーク状の異常が見られるが、導入後にはV =±60mV近傍に異常が現れ、信号自体の形状が大きく変化することがわかった。この信号は室温で十分に水素吸蔵後に低温に冷却したPdH~0.6水素化金属の信号と非常に良く一致する。以上の実験結果は、バイアス電圧によって加速された電子がPd中にトラップされた水素に衝突することで、水素が励起するという描像で理解できることがわかった。以上の結果はApplied Physics Letters, 106, 021605 (2015) に論文として掲載されている。さらに同様の実験をPd同様に水素吸蔵金属として知られる、Vナノコンタクトを用いて行ったところ、液体水素からVコンタクトへの水素吸蔵が確認できた。 さらに水素トンネル現象の解明を目的に、Vibaring Wire法を用いた金属内の水素検出技術の開発を行った。それよりPdワイヤ(直径0.02mm)内への水素吸蔵による脆化、ワイヤの質量変化により、ワイヤの共鳴周波数が大きく変化することを明らかにし、この方法が水素の検出に有効をあることを示した。以上はApplied Physics Express 8, 095502 1-4 (2015)に報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでPd, V, Nb, Fe金属ナノコンタクトを利用して、液体水素からナノコンタクトへの水素の吸蔵現象を追跡してきた。その結果、熱的な吸蔵・拡散過程が凍結された液体水素温度でも、水素の吸蔵・拡散現象が確認できた。これは水素が量子トンネルによって金属内に侵入することを示すことを、直接的に示す初めての実験であり、またナノコンタクトを利用した水素検出方法も非常に有効であることを示している。さらにFeはその内部に水素を高濃度に吸蔵しないが、ナノ化すると表面に高濃度水素を生成するという結果を得ており、応用上も重要な結果と考えられる。 今後は、この方法を用いて他の金属で実験を行うなど、金属中水素に関するさらに多様な実験が期待できる。 上記のナノコンタクトを用いた測定とは独立に、ワイヤの機械的振動(Vibrating Wire)法を用いた水素検出技術も開発した。これを用いてPdワイヤへの水素吸蔵現象の温度依存性を明らかにした。今後はこの機械的振動法を様々な金属に適用することで、水素のトンネル拡散現象をマクロ測定から探っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきた実験をさらに他の金属で行うことで液体水素温度における、トンネル効果による水素の金属内への吸蔵・拡散現象の一般性を探る。さらに、重水素は水素に比べ中性子を余分に持つため、両者の全スピン角運動量は異なる。そこでこのスピン統計性の違いによって誘起される量子現象に焦点を当て研究を進める。 また、現在はT=15Kで測定を行っているが、水素誘起超伝導現象等を探索するため、T=4K以下の温度まで測定領域を拡張する。 上記のナノコンタクトを用いた測定とは独立に、ワイヤの機械的振動(Vibrating Wire)法を用いた水素検出技術も開発した。これを用いてPdワイヤへの水素吸蔵現象の温度依存性を明らかにした。今後はこの機械的振動法をV, Nbなどの代表的な水素吸蔵金属に適用することで、水素のトンネル拡散現象をマクロ測定から探っていく。また、水素吸蔵に対する表面酸化物の影響を解明していく。
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