2015 Fiscal Year Research-status Report
バイドメインモデルにおける界面運動と信号伝播メカニズムの解明
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26610028
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
俣野 博 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (40126165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奈良 光紀 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (90512161)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バイドメインモデル / 平面波 / 安定性 / 非線形問題 / 擬微分方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイドメインモデル(bidomain model)は,心臓の電気生理を記述する最も標準的な数理モデルとして医学や心臓生理学の分野に広く応用されている.このモデルは,古典的なHodgkin-HuxleyやFitzHugh-Nagumo方程式などの反応拡散系と種々の類似点があるが,方程式の主要部がラプラシアンでなくバイドメイン作用素と呼ばれる擬微分作用素であるため,通常の拡散方程式とは際だった違いがある.バイドメインモデルは,その応用上の重要性にもかかわらず,解の性質に未知の部分が多く,系統だった理論的研究は極めて少ない.本研究は,バイドメインモデルの解の特質を定性的観点から解明することを目指すものである.
昨年報告したように,平成26年度に双安定型非線形項をもつバイドメインAllen-Cahn方程式の平面波の線形安定性を研究し,長波長摂動に関する安定性とFrank図形の形状の関係や中間波長摂動に関する安定性について画期的な成果が得られた.この論文は,平成27年11月に海外の学術誌に掲載が確定した.
平成27年度は,バイドメインAllen-Cahn方程式の平面波の非線形安定性を研究した.これまで得られた線形安定性に関する結果は,線形化方程式のスペクトルの情報に基づくものであるが,平面波の非線形安定性を調べるためには,まず,元の非線形方程式の適切性を示す必要がある.これは,バイドメイン作用素の基本解の遠方での減衰のオーダーを調べることでほぼ解決できた.次に,非線形安定性を解析するには,線形部分を除いた高次項の評価が必要である.バイドメイン作用素の性質にはまだ未知の部分が多いので,平面全体で高次項の評価をするのは難しい.そこで,当面の目標として,帯状領域における平面波の安定性解析に的を絞ることにした.現在,この安定性解析に必要な高次項の評価を着々と進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度の目標は,バイドメインAllen-Cahn方程式の適切性の証明と,平面波の非線形安定性の証明であった.適切性とは,与えられた関数空間の中で初期値問題がきちんと解けることを意味する.現在のところ,適切性についてはほぼ解決できたが,平面波の非線形安定性については,まだ完全解決には至っていない. 現在の状況をもう少し詳しく述べる.まず適切性は,空間領域が有界であれば比較的易しいが,本研究で扱っている領域は非有界なのでより注意深い解析が必要である.幸い,バイドメイン作用素の基本解の遠方での減衰評価を用いて,方程式の適切性はほぼ解決できた. 一方,平面波の非線形安定性については,まだ解決すべきいくつかの問題が残っている.非線形安定性を解析するには,線形部分を除いた高次項の評価が必要である.とくに解が線形安定なら非線形安定であることを証明するには,高次項が長時間経過後もじゅうぶん小さい状態にとどまることを示す必要がある.領域が非有界であることと,バイドメイン作用素が最大値原理をみたさないことにより,高次項の長時間評価は極めて難しい.その技術的な難しさが予想していた以上に大きかったため,年度内の完全解決には至らなかった.そこで現在は,平面全体でなく無限帯状領域における平面波の安定性解析を行っている.これは,当初の野心的な目標と比べればやや後退しているものの,これまでバイドメイン方程式の非線形安定性に関する研究は皆無であることを考えれば,帯状領域における安定性解析ができるだけでも従前の研究をはるかに超える大きな成果といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
帯状領域における平面波の安定性解析は,あと一歩のところまできており,まずはこの問題の解決を急ぐ.これと平行して,平面波が不安定な場合にどんな挙動をするかを数値シミュレーションによって観察する.以前行った準備的な数値実験では,不安定な平面波からノコギリの歯状のギザギザパターンが生じることが観察された.しかし,当時の数値計算の精度は必ずしも高くなかった. 平成26年度の研究により,線形化方程式のスペクトルについて多くの情報が得られたので,平面波が長波長摂動に関して線形不安定な場合と,中間波長摂動に関して不安定な場合で,その挙動にどのような違いが現れるかを,これまでより精度の高い数値実験で調べる. バイドメイン方程式の性質には,まだまだ未知の部分が多い.平面波の線形安定性について平成26年度に多くの知見が得られたことは画期的であったが,非線形安定性や広がり波面の形状など,残っている問題を3年という短い研究期間ですべて理論的に解決するのは不可能である.そこで,最終年度は,帯状領域における平面波の非線形安定性の理論的研究を一つの柱とする一方,もう一つの柱として,数多くの数値シミュレーションを行って,不安定平面波の挙動を線形化スペクトルの情報と対比させながら詳しく観察し,そのデータと,フランク図形の各方向の凹凸と対比させる.こうしたデータを多数蓄積することで,バイドメイン方程式に現れる界面についての理解を多角的な視点から深めることができる.また,将来の理論解析の進める上でも,多くの示唆が得られると期待される.
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